院内感染予防対策認定制度

院内感染予防対策認定制度の施行について

(院内感染予防対策認定医・院内感染予防対策認定歯科衛生士)

 

日本口腔感染症学会 院内感染対策委員会
 

 

経緯と意義
 歯科医療現場ではHBV、HCV、HSV等のウイルス感染症をはじめ、MRSA、梅毒、薬剤耐性緑膿菌等の細菌感染症を日常的に経験します。また、HIV感 染者は我が国では先進国で唯一増加しており、性感染症としてとくに若者の感染が顕著で一般の認識以上に万延しています。そして2010年には5万人に達す ると推定されています。さらに、最近ではSARS、鳥インフルエンザや新型インフルエンザの脅威が世界的に話題となっており、今後もさらにウイルスを中心 とする新たな新興病原体の出現を覚悟しなければなりません。一方、厚生労働省がHIV感染症に関連して歯科医師に行った調査結果を基に、一昨年から昨年に かけて「HIV感染者・歯科医の30%拒否」との複数の新聞報道があり、「歯科医師は医療の専門家にもかかわらず誤解、偏見を持ち知識が不十分」と厳しく 批判しています。

また、厚生労働省は平成17年5月6日付けで歯科医療従事者と各都道府県等に対して、2003年米国CDCの「歯科院内感染予防ガイドラ ン」および2004年度厚生労働科学研究費補助金・エイズ対策研究事業の成果として作成のした「HIV感染症の歯科治療マニュアル」の内容について周知徹 底を図ること、すなわちスタンダードプリコーションを周知徹底するように通知しました。2006年の春に全国歯科医師会会員にそのマニュアルが配布された ところです。これは現在の歯科医師の感染症に対する意識や院内感染予防対策が信頼されていないことを意味します。とくに多くの一般歯科診療所における院内 感染予防対策は必ずしも十分といえないのが現状で、その指摘を否定することはできません。

しかし、歯科診療は観血処置が多いこと、鋭利な器械器具が多いこ と、歯牙切削に伴う飛沫と環境汚染、また精密な歯科用器械の消毒滅菌の煩雑さ、そしてコストパフォーマンス等、多くの問題を抱えます。院内感染予防対策は 病院歯科口腔外科では比較的取り組みやすい環境にある一方、一般歯科診療所では大きい負荷となることも現実です。しかしながら、それを理由に避けて通るこ とは許されません。


 日本口腔感染症学会は、過去10年以上にわたり院内感染予防対策について学会総会、セミナーを通じて取り組んできた実績をも ち、また、ICD協議会の認定加盟学会としてICDを輩出しております。 さらに、本学会は設立当初より、大学、病院、開業医の3者が一堂に会して研鑽す るという意義深い性格、特徴をもち、多くの開業医の会員を有しています。上記のような状況の中、日本口腔感染症学会では院内感染予防対策の重要性をあらた めて認識し、開業医に密接な学会として指導的立場で一般歯科診療所を中心に院内感染予防対策のステップアップを図ることは本学会の責務でもあると判断致し ます。


 そこで、本学会では2004年より諮問委員会において1年間検討を行なった後、院内感染予防対策に関する歯科医師と歯科衛生士の本学会独自 の認定制度を策定することになりました。2005年秋に「院内感染対策委員会」を設置した上で、院内感染予防あるいは感染症に関して実績があり、また専門 性の高い22名の歯科医師、歯科衛生士を委員に迎え、ワーキンググループを中心に1年をかけて認定基準等について鋭意具体的検討を重ねて認定規則・細則を 策定致しました。


 この院内感染予防対策認定制度は院内感染予防対策の特別な専門歯科医師や歯科衛生士をつくろうというものではなく、開業医に身近 な学会として主に開業医の先生や歯科衛生士に院内感染予防対策に対する意識の向上とステップアップを図り、さらに継続的に研鑽と情報の獲得を継続して頂く ことを目的としています。従って、他の学会の認定制度のように論文数や学会発表といった学会活動だけに軸足を置くことは避けて、開業医が日常の努力で認定 資格を得られるハードルとし、合わせて研究機関、教職、行政に携わる歯科医師、歯科衛生士も認定資格を得られる認定基準にしております。また、歯科衛生士 についても、そのほとんどが開業医に勤務することや平素院内感染予防に関する研修の機会が少ないことから、同様の考え方に立って日常業務の中で可能な努力 により認定資格を得られ、やはり研究機関、教職、行政に携わる歯科衛生士も資格を得られる認定基準としました。


 以上のことから、認定規則・細則は次の点に配慮し、長時間の議論を尽くして作成致しました。

  1. 米国CDCの「歯科院内感染予防ガイドラン」および「HIV感染症の歯科治療マニュアル」に記載されている院内感染予防対策から逸脱しないこと。
  2. しかし日本の実情に即した形で一般開業医や歯科衛生士が日常の努力でクリアできる認定基準を設定すること。
  3. さらに学会が認定するにふさわしいレベルを有していること。
  4. 今後、新たな病原体あるいは新興感染症の出現、また、感染予防対策の考え方や方法の変更等が予測されることから、規則・細則を適宜改定しやすいように 配慮をすること。

 院内感染予防対策はすべての医療を支える根幹です。本認定制度が「安全で社会に信頼される安全な歯科医療の提供」に貢献し、同時に「医療従事者の安全と健康」に寄与するための1つの支えとして広く評価を得られることを期待致します。
最後に、本認定制度の策定にあたり、多くの貴重なご意見とご協力を賜りました院内感染対策委員会委員の皆様方に心よりお礼申し上げます。そして、多くの歯科医師、歯科衛生士が認定を受けられますことを期待してやみません。