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集消毒薬の選び方
山口大学医学部附属病院 薬剤部
尾 家 重 治
要 旨
歯科器材の消毒には熱水がもっとも適している。紫外線の使用は勧められない。また、グルタラール(グルタルアルデヒド)、フタラール(オルトフタルアルデヒド)および過酢酸などの高水準消毒薬は、熱水消毒が行えない場合で、かつ換気が十分な環境下での使用にとどめるべきである。
はじめに
消毒薬には一長一短がある。例えば、洗浄剤含有4%クロルヘキシジン(ヒビスクラブ?、マスキン?スクラブなど)や洗浄剤含有ポビドンヨード(イソジン?スクラブ、ネオヨジン?スクラブなど)は、手指消毒にすぐれた抗菌力を示すものの、5回/日などの頻回使用により手荒れを招く1,2)。したがって、消毒薬の使用は適正に行う必要がある。
1.消毒薬の基礎知識
図1に、微生物を消毒薬抵抗性の強い順に並べるとともに、消毒薬の抗菌スペクトルを示した。また、表1に消毒薬の主な消毒対象と使用上の留意点を示した。
グルタラール(ステリスコープ?、サイデックス?など)、フタラール(ディスオーパ?)および過酢酸(アセサイド?)は、効力の面では“消毒薬の横綱”であり、内視鏡の第一選択消毒薬として汎用されている。また、熱消毒の設備がない場合で、換気が良い環境下であれば、ウイルス汚染の金属製器材の消毒にも適している。ただし、毒性の面でも横綱であるこれらの消毒薬では、蒸気曝露や付着に対する注意や、器材への残留に対する注意が必要である。
また、次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン?、ピューラックス?など)は、汚れ(有機物)が少なければ、すべての微生物に有効な消毒薬である。本薬は経腸栄養剤の投与セットなどの「食」関連器材や、蛇管などの「呼吸器」関連器材の消毒に適している。また、印象材などの非金属製器材や、シーツなどのリネン類の消毒にも適している。なお、欧米ではデブリードメント効果を期待して創部の洗浄・消毒に用いられている。
グルタラールや次亜塩素酸ナトリウムに次いで広い抗菌スペクトルを示す消毒薬として、ポビドンヨード(イソジン?、ネオヨジン?など)やアルコール(消毒用エタノール、70%イソプロパノール)があげられる。ポビドンヨードやアルコールは、細菌芽胞を除くすべての微生物に効力を示す。ポビドンヨードは正常皮膚・粘膜・創傷の消毒に、またアルコールは正常皮膚の消毒に使用できる。
一方、クロルヘキシジン(ヒビテン?、マスキン?など)や塩化ベンザルコニウム(オスバン?、ザルコニン?など)は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの一般細菌や、カンジダなどの酵母様真菌に有効な消毒薬であり、ほぼ無臭で使い勝手がよい特徴を有している。
2.生体消毒における留意点
表2に、生体に対する消毒薬の選択例を示した。生体適用での留意点を次にあげる。
(1) 適正濃度での使用を!
クロルヘキシジン(ヒビテン?、マスキン?など)の0.05%液は創部消毒に有用であるが、誤って1桁高い0.5%液を用いるとショックが生じる可能性がある3,4)。また、クロルヘキシジンの0.02%液は結膜嚢の消毒に用いられるが、誤って0.2%液を用いると重篤な眼障害が生じる5,6)。
このような消毒薬の濃度の誤りは、希釈調製時に生じることが多い。したがって、濃度の誤りを防止するため、クロルヘキシジンや塩化ベンザルコニウム(オスバン?、ザルコニン?など)などの生体適用では、希釈・滅菌済み製品の使用が勧められる。0.05%クロルヘキシジン製品にはヒビディール?液や0.05%マスキン?水が、また0.025%塩化ベンザルコニウム製品には0.025%ザルコニン?液や0.025%ヂアミトール?水などがある。
(2) アルコールの引火性に注意!
0.5%クロルヘキシジンアルコール(いわゆるヒビテンアルコール;マスキン?エタノール、ベンクロジド?エタノールなど)での術野消毒後に電気メスを使用したところ、患者が熱傷を負った例がある(図2)。皮膚と手術台の間に溜まっていた本薬に電気メスの火花が引火したためであった7,8)。
このように患者付近から青白い炎が上がる事故はまれではない。術野へのアルコール製剤の使用に際しては、皮膚と手術台の間に溜まるほどの大量使用は避けるとともに、アルコールの乾燥を確認してから電気メスなどを使用する必要がある。
(3)細菌汚染に注意!
塩化ベンザルコニウム(オスバンR、ザルコニンRなど)、クロルヘキシジン(ヒビテンR、マスキンRなど)および両性界面活性剤(テゴー51R、ハイジールRなど)などの抗菌スペクトルの狭い消毒薬では(図1)、使用中の細菌汚染に対する注意が必要である。典型的な汚染パターンは、これらの消毒薬の綿球やガーゼを長期間にわたって分割使用やつぎ足し使用した場合である(図3)9-11)。したがって、これらの消毒薬の綿球やガーゼは、調製後24時間以内に廃棄するのが望ましい。なお、0.025%塩化ベンザルコニウム綿球では滅菌済みの単包化製剤(ザルコニン?0.025%綿球C)が市販されている。
一方、ポビドンヨード(イソジン?、ネオヨジン?など)やアルコール(消毒用エタノール、70%イソプロパノール)の綿球やガーゼが、使用中に微生物汚染を受ける可能性はない(ドロなどの混入による芽胞汚染を除く)。
3.環境や器材の消毒における留意点
表3に、環境や器材に対する消毒薬の選択例を示した。環境や器材の消毒での留意点を次にあげる。
(1)ホルマリンくん蒸は望ましくない
旧法律の伝染病予防法では、ホルマリン(ホルムアルデヒド)くん蒸が推奨されていた。しかし、ホルマリンガスには粘膜刺激性があるのみならず、動物実験で発がん性が報告されている12,13)。したがって、ホルマリンくん蒸は、毒性の観点から差し控えるべきである。病室のホルマリンくん蒸や、いわゆるホルマリンボックスの使用は中止する必要がある14)。
(2) 紫外線は望ましくない
紫外線は角結膜炎などの原因になり、発がん性が指摘されている15)。また、紫外線はクリーンな表面には有効なものの、汚れなどが付着した表面には無効である。したがって、紫外線による器材消毒は差し控えたい。
歯科領域では紫外線を利用した消毒装置(図4など)が汎用されている。しかし、本装置では、非照射部分で抗菌効果が得られない。また、本装置では効力がなくなった紫外線管球が使用されていることも少なくない。したがって、本装置の消毒目的での使用は勧められない。なお、紫外線消毒は伝染病予防法では推奨されていたものの、1999年に施行された感染症法では推奨されていない16)。
(3) オゾンは望ましくない
オゾンはMRSAや緑膿菌などの一般細菌のみならず、結核菌や芽胞にも有効である17)。しかし、有効濃度である0.1ppm以上のオゾンガスには強い毒性があり、動物実験で発がん性も指摘されている18)。また、オゾンは腐食性が強く、とくにゴムを傷めやすい。したがって、オゾンによる環境や器材(尿器など)の消毒は差し控えたい(図5)。ただし、水の殺菌や完全密封空間(滅菌機など)での使用は問題ない。
なお、オゾンの脱臭効果は否定されている。したがって、病室やポータブルトイレの脱臭にオゾンを使用することも、毒性の観点から差し控えたい。
(4) クレゾール石けんは勧められない
伝染病予防法の時代には、クレゾール石けんが汎用されていた。しかし、クレゾール石けんはもともと腐食性が強い消毒薬である。原液〜5倍希釈液の皮膚付着で化学熱傷が生じるのみならず、その化学熱傷部位からの吸収により全身毒性が発現する19,20)。実際、病院や学校などでのクレゾール石けんによる事故例は少なくない。また、本薬は分解されにくいので、環境汚染の面でも問題がある。さらに現在では、両性界面活性剤(テゴー51?、ハイジール?)などの代用となり得るいくつかの消毒薬が市販されている。したがって、クレゾール石けんの使用は勧められない。
(5) 器材消毒には熱が適している
熱(熱水、蒸気)は、消毒薬に比べて効果が確実である21〜23)。また、熱には取り扱い者に対する毒性や、残留毒性がない。したがって、耐熱性で耐水性の歯科器材には熱消毒が適している。熱消毒は、従来からの煮沸消毒ではなくて、「洗浄→熱消毒」の工程が自動的に行える装置で行うのが望ましい(図6など)。
なお、図7に微生物を熱抵抗性が強い順にならべるとともに、熱の抗菌スペクトルを示した。また表4に、熱による消毒例まとめた。
4.消毒薬の副作用
消毒薬は、抗生物質に比べるとはるかに高い毒性を示す。したがって、消毒薬の有害作用は、患者のみならず取り扱い者にも生じることに留意したい。表5には、患者に生じた消毒薬の有害作用例をあげた。また、グルタラール、フタラールおよび過酢酸などの高水準消毒薬では、皮膚付着で化学熱傷が、蒸気曝露で眼刺激などが取り扱い者に生じる24)。
おわりに
英国での報告によれば、過去5年間に歯科治療などを行ったヒトは、そうでないヒトに比べてC型肝炎ウイルスへの感染率が高い25)。また、この原因として、歯科器材の不十分な消毒が指摘されている。したがって今後は、歯科器材の消毒には効果が確実な方法を推進していく必要があろう。
また、歯科領域では、使用済み器材の洗浄中に、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスなどへ感染する例が少なくないと推定される26)。したがって、病院においては一次洗浄を廃止して中央洗浄とするのが望ましい。また、医院においては自動的に洗浄および熱水消毒ができる装置(ウオッシャーディスインフェクタなど)の利用が勧められる。
引用文献
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