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性感染症(STD)の現状 −口腔所見を含めて−
神戸大学医学部附属病院手術部・感染制御部
荒 川 創 一
性風俗の変遷に伴って、性感染症もまた、その病像を変えていく。HIV感染症も、薬害エイズを除けば、その多くが性感染症として伝播し、口腔内所見に得意な像(口腔カンジダ症、カポジ肉腫その他)を示し、歯科口腔外科領域で、その診断の契機を得ることも少なくない。梅毒も、口腔内潰瘍で診断されることもある。
さて、性感染症(sexually transmitted disease:STDまたはsexually transmitted infection:STI)は性行為で伝播するすべての感染症を指す。
感染症に関する法律が1999年に制定され、2004年に改訂された。その中で、性感染症は5類に5種の疾患が定点報告として位置付けられている。顕症梅毒、性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症がそれに当たる。それに加えて、HIV感染症は全数報告が義務付けられている。
全国定点サーベイランスでは1995年ごろから2002年にかけて淋菌感染症は増加の一途を辿っているが、その後は、減少している傾向が見られる。しかし、厳密なセンチネルサーベイランスの成績が2003年以降途絶えているので、本年に始まった小野寺班の厚生労働科学研究でその検証がなされるものと期待される。
上述の1990年代半ばからの男性における淋菌感染症の増加は、性風俗の変化、特に、オーラルセックスの増加が原因となっていると思われる。また、薬剤耐性淋菌の増加が原因と考えられる。特に、キノロン系薬をはじめとして、ペニシリン系、テトラサイクリン系、マクロライド系薬などに加え、第3世代を含む経口用セフェム系薬にも耐性を示す多剤耐性淋菌の蔓延が関与しているものと思われる。
日本性感染症学会では、1996年より、性感染症の診断・治療のガイドラインを発表し、数回にわたり改訂を行っている。1999年から2004年にかけて、大幅な改訂が行われた。先般発刊された2004年版では淋菌、クラミジア感染症に新たに適応が追加された薬剤を含め、斬新なものとなっている。
一方、日本感染症学会と日本化学療法学会では、2005年に「抗菌薬使用のガイドライン」を刊行し、その中で、日本性感染症学会の上記ガイドライン2004年版を参考として性感染症治療を解説している。
1.淋菌感染症:性器(男性尿道、女性子宮頸管)または咽頭感染している淋菌の菌体(または抗原)を検鏡や培養、PCRまたはEIA法などで確認し得た症例。男性尿道炎では、膿性分泌物など特徴的症候あり。
2.性器クラミジア感染症:性器(男子尿道、または女子子宮頸管)に感染を認めるが、淋菌の菌体(または抗原)を確認し得ずクラミジア抗原検査(培養、PCR、またはEIA法)により、クラミジアを確認し得た症例をいう。
3.性器ヘルペスウイルス感染症:性器病巣の臨床所見から、単純ヘルペスウイルス感染症と診断された症例。再発症例も含む。なお、この疾患の診断は、病巣からのウイルス検出施行の有無に関係なく、臨床診断のみに基づく。
4.尖圭コンジローマ:性器及び性器周辺部に尖圭コンジローマの病巣を認めた症例。再発症例も含む。なお、この疾患の場合も、病巣からのヒトパピローマウイルス検査施行の有無に関係なく、臨床診断に基づく。
5.顕症梅毒:梅毒性皮膚病変を有する症例。但し病期T期及びU期のもの。
以上が、臨床現場での一般的な診断基準である。
6.HIV感染症:エイズ発症を疑う指標疾患が23種設定されている。その代表的なものがPCP(ニューモシスチス肺炎)である。他への伝播力が強いものとして、結核は忘れてはならない。口腔外科領域では、ヘルペスウイルス感染症、カンジダ症、カポジ肉腫、悪性リンパ腫も特徴的である。指標疾患には入っていないが、梅毒が口腔所見で診断され、HIV抗体を検査したら陽性ということもある。
1. 淋菌感染症
a.病態と原因菌
淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による感染症で、男性の尿道炎と女性の子宮頸管炎が最も多い。男性では、淋菌が管内性に上行し、精巣上体炎を起こすこともある。女性では、クラミジア同様、淋菌も骨盤内炎症を起こすことがあり、淋菌性骨盤内感染症(pelvic inflammatory disease:PID)と呼ばれる。また、最近、オーラルセックスの増加に伴い、咽頭での保菌や感染が問題となっている。男女とも、性器に淋菌が証明された患者の20〜30%に淋菌の咽頭での検出がみられている。さらに、淋菌性結膜炎や直腸炎なども見られることがある。また、播種性淋菌感染症(disseminated gonorrheal infection: DGI)として、菌血症や関節炎が見られることもある。
淋菌感染症での最も大きな問題は、薬剤耐性菌の増加である。淋菌の薬剤耐性機構はβ-ラクタム耐性、テトラサイクリン耐性、キノロン耐性などがあり、これらの異なった機構による耐性が同時に認められ、多剤耐性となっている点が重要である。β-ラクタム耐性には、penicillinase-producing N.gonorrhoeae(PPNG)が古くから知られているが、わが国では近年数%以下と少なく、増加傾向は見られていない。β-ラクタム耐性の中で、PPNGに代わって、増加しているのは染色体に耐性遺伝子が存在するペニシリン耐性菌でchromosomally mediated resistant N.gonorrhoeae(CMRNG)と呼ばれるものである。これは、ペニシリンの抗菌ターゲットであるpenicillin-binding protein(PBP)の変化と外膜蛋白の遺伝子変化によると考えられている。最近、ペニシリンとともに、第3世代を含む多くのセフェム系薬剤に耐性を示す新しいタイプの薬剤耐性淋菌が発見され、増加している3)。この種類の薬剤耐性は、ペニシリン系とともに経口用および多くの注射用セフェム系薬剤にも耐性である。その中で、セフォジジムとセフトリアキソンには現時点で耐性菌が認められていない、スペクチノマイシンにも、ほとんどすべての淋菌株が臨床的に感受性の範囲にある。経口セフェム系薬ではセフィキシムが最も低いMIC90を示すが、臨床的に無効例が増えてきている。
オーラルセックスの増加に伴い咽頭での淋菌の感染・保菌が問題となっている。従って、性感染症による尿道炎で淋菌が検出された症例では、咽頭の検査が必要となる。咽頭の淋菌検査には、培養法が薦められる。しかし、一般に汎用されているThayer Martin培地では、口腔内の細菌の増殖があり、鑑別が困難な場合があるので、New York City培地やトリメトプリムを含有したThayer Martin培地を用いるべきである。PCR法は、口腔内に存在する、他のナイセリア属の細菌との交差反応があることが知られており、用いるべきではない4)。
b.抗菌薬の選択と使用法
処方例(除菌率95%以上、セフェム系薬ではショックに注意)
淋菌性尿道炎・子宮頚管炎
セフォジジム:静注 1.0g 単回
セフトリアキソン:静注 1.0g 単回
スペクチノマイシン:筋注 2.0g 単回
*セフィキシム1回200mg、1日2回 1〜3日間も選択できるが、除菌率は95%未満で、投与終了後に淋菌の検査が必要。
淋菌性精巣上体炎・骨盤内感染症
セフォジジム:静注 1.0g 1〜7日間
セフトリアキソン:静注 1.0g 1〜7日間
スペクチノマイシン:筋注 2.0gを2回(初日と3日後に1回ずつ)
*淋菌性精巣上体炎・骨盤内感染症ともに、症例ごとに重症度が異なるため、投与期間は症例ごとに判断する。
淋菌性咽頭感染症
セフォジジム:静注 1.0gまたは2.0g 単回または1.0g×1〜2回 1〜3日間
セフトリアキソン:静注 1.0g単回
*咽頭感染に対してスペクチノマイシンの効果は劣るので使用すべきではない。
播種性淋菌感染症
セフォジジム:静注 1.0g×2回 3〜7日間
セフトリアキソン:静注 1.0g×2回 3〜7日間
淋菌性結膜炎
スペクチノマイシン:筋注 2.0g 単回
*保険適応はないが、推奨される治療法
セフォジジム:静注 1.0g 単回
セフトリアキソン:静注 1.0g 単回
2. クラミジア感染症
a.病態と原因微生物
性器クラミジア感染症は増加の一途を辿っており、大きな社会問題となっている。ことに、妊婦検診などで明らかにされているように、一般家庭への浸透が問題である。したがって、症状のはっきりしない無症候性感染者の発見が重要である。
b.抗菌薬の選択と使用法
クラミジアの治療は、テトラサイクリン系、マクロライド系、ニューキノロン系薬から保険適応のある薬剤を選択する。
処方例
・ミノサイクリン:1回100mg、1日2回
経口 7日間
・ドキシサイクリン:1回100mg、1日2回
経口 7日間
・クラリスロマイシン:1回200mg、1日2回 7日間
・アジスロマイシン:1000mg 単回 経口
・レボフロキサシン:1回 100mg、1日3回
経口 7日間
・トスフロキサシン:1回 150mg、1日2回
経口 7日間
・ミノサイクリン:1回100mg、1日2回
点滴 3〜5日間 (重症例)
妊婦にはテトラサイクリン系とキノロン系薬は投与しない。
成人男性および非妊婦女性ではミノサイクリンが第1選択となるが、ふらつきに注意。運転者や高所従業者などでは、レボフロキサシンかトスフロキサシンを選択。レボフロキサシン1回200mg、1日2回 経口 7日間という投与法でも優れた効果が報告されている。キノロン系薬としては、この2薬剤が第一選択となる。
3. 性器ヘルペスウイルス感染症
a.病態と原因微生物
単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)1型、2型で起こる性器の有痛性発疹性疾患である。初感染、初発、再発の3型に分類されるが、初感染がはっきりしない場合もある。HSVは、神経節に潜伏することが知られており、潜伏感染したウイルスが何らかの刺激により、再活性化し、再発性病変を形成することがある。
b.抗菌薬の選択と使用法
処方例
1)初発例
・バラシクロビル:経口 500mg×2回 5〜10日間
・アシクロビル:経口 200mg×5回 5〜10日間
・アシクロビル:点滴 5mg/kg×3回 5〜10日間(重症例)
2)再発例
・バラシクロビル:経口 500mg×2回 5〜10日間
・アシクロビル:経口 200mg×5回 5日間
・3%ビダラビン軟膏または5%アシクロビル軟膏:
1日数回 5〜10日間(軽症例)
4. 尖圭コンジローマ
a.病態と原因微生物
ヒト乳頭腫ウイルス(human papilloma virus:HPV)によりおこる特有な尤贅を形成する疾患で、疼痛、その他の症状はほとんどみられない。良性型HPVの6型ないし11型の感染によることが多い。男性では、亀頭部、冠状溝、包皮、陰嚢部などに発生し、乳頭状、鶏冠状の外観を呈する。女性では、大小陰唇、膣前庭、膣、子宮口などに病変を形成する。また、男女性とも、肛門内、肛囲、尿道口に好発する。ウイルスの検出法として、液層ハイブリダイゼーション法のhybrid capture法とPCR法(保険適応外)が使用できる。
b.治療法
治療には、主に外科的治療(外科的切除、液体窒素による凍結療法、電気焼灼、CO2レーザーなど)が行われるが、10〜25%ポドフィリン溶液(市販されていない)なども用いられている。また、ブレオマイシン軟膏あるいは5FU軟膏の塗布(保険適応外)も行われる。
5. 梅毒
a.病態と原因微生物
梅毒スピロヘータ(Treponema pallidum)による感染症で、皮膚や粘膜の小さな損傷部から侵入することによって感染し、血行性に全身に散布される。胎児が母体内で胎盤を通じて感染したものが先天性梅毒、それ以外は後天性梅毒と呼ばれるが、後天性梅毒の多くが性感染症である。さらに、皮膚や粘膜に梅毒特有の病変が認められる顕症梅毒と、症状は認められないが、梅毒血清反応が陽性の無症候性梅毒に分けられる。
第一期梅毒
感染後約3週間すると、感染局所に初期硬結が生じ硬性下疳となる。
第二期梅毒
トレポネーマがリンパ節から血行性に全身に散布され、皮膚や粘膜に梅毒特有の発疹がみられるのが第二期梅毒である。
第三期梅毒
感染後3年以上経過すると晩期顕症梅毒として結節性梅毒疹やゴム腫を生じてくる。第三期梅毒は、現在ではほとんどみられない。
第四期梅毒
感染後10年以上経過すると梅毒による大動脈炎、大動脈瘤、脊髄癆、進行麻痺などの症状が現れるが、現在ではほとんどみられない。
無症候梅毒
臨床症状は認められないが、梅毒血清反応が陽性のものをいう。
b.抗菌薬の選択と使用法
梅毒の治療には、殺菌的に働き、耐性の報告もないペニシリン系薬を第一に選択すべきである。治療開始後数時間でトレポネーマが破壊され、発熱や全身倦怠感、悪寒、頭痛などが見られることがあり、Yarisch-Herxheimer現象と呼ばれている。
処方例
顕症梅毒
投与薬剤
・ベンジルペニシリンベンザチン:経口40万単位×3
・他の合成ペニシリン系薬:経口 500mg×3
・ミノサイクリン:経口 100mg×2 (ペニシリンアレルギーの場合)
・アセチルスピラマイシン:経口 200mg×4または200mg×6(ペニシリンアレルギーで妊婦の場合)
無症候梅毒
STS法抗体価が16倍以上の症例は、治療するのが望ましい。感染時期を推定し、その期に応じた期間の治療を行う。しかし、感染時期が不明な場合は8〜12週間の治療期間とする。
神経梅毒
ベンジルペニシリンカリウム:点滴 200〜400万単位×6 10〜14日間
投与期間
第一期:2〜4週間
第二期:4〜8週間
第三期以降:8〜12週間
6. HIV感染症/後天性免疫不全症候群(エイズ)
わが国での性感染症のひとつとして、異性間および男性同性間の性的接触による新たなHIV感染症は、その発症病態であるエイズとともに、2005年現在、増え続けている。一方、抗HIV薬の進歩は目覚しく、的確な診断とフォローを受け、適切な時期にHAART: Highly Active Antiretroviral Therapyを開始すれば、HIV感染症は、慢性感染症として、コントロール可能な疾病となった。しかし、感染者の多くは自らが感染していることを自覚していないがために、知らずに性行為による他者への伝播を起こすことや、適切な治療導入の機会を逸して、重症なエイズすなわち日和見感染症や腫瘍で発症するという患者も増えている。
a.HIV感染症の病態
HIV感染症はHIV(Human Immunodeficiency Virus)がCD4陽性Tリンパ球やマクロファージ系細胞に感染した結果、免疫システムが徐々に破壊されていく進行性疾患である。病期は、1) 急性期(感染数週間後)、2) 無症候期(5〜10年)、3) エイズ発症期の3期に分かれる。急性期は発熱、咽頭痛、発疹、リンパ節腫大といった、伝染性単核球様症候をきたすが、数週間で消失し、無症候期に入る。無症候期は、血漿中ウイルス量とリンパ組織中ウイルス量は平衡状態にあるといえるが、ある時点からこのバランスが崩れ、血中CD4リンパ球数(正常では500から1000/μl)が減少し、免疫不全状態が進行し、エイズを発症する。エイズ指標疾患には下記の23種が挙げられている。
A.真菌症
1.カンジダ症(食道、気管、気管支、肺)
2.クリプトコッカス症(肺以外)
3.コクシジオイデス症(@全身に播種したもの、
A肺、頸部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの)
4.ヒストプラズマ症(@全身に播種したもの、
A肺、頸部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの)
5.ニューモシスチス肺炎
B.原虫感染症
6.トキソプラズマ脳症(生後1ヵ月後)
7.クリストスポリジウム症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)
8.イソスポラ症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)
C.細菌感染症
9.化膿性細菌感染症(13歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等の化膿性細菌により以下のいずれかが2年以内に、二つ以上多発あるいは繰り返して起こったもの)@敗血症 A肺炎 B髄膜炎 C骨関節炎 D中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍
10.サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)
11.活動性結核(肺結核又は肺外結核)*
12.非定型抗酸菌症
D.ウイルス感染症
13.サイトメガロウイルス感染症(生後1か月以後で肝・脾・リンパ節以外)
14.単純ヘルペスウイルス感染症(@1か月以上持続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの A生後1か月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの)
15.進行性多巣性白質脳症
E.腫瘍
16.カポジ肉腫
17.原発性脳リンパ腫
18.非ホジキンリンパ腫(LSG分類による@大細胞型・免疫芽球型、Burkitt型)
19.浸潤性子宮頸癌*
F.その他
20.反復性肺炎
21.リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13歳未満)
22.HIV脳症(痴呆又は亜急性脳炎)
23.HIV消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病)
*C11:活動性結核のうち肺結核、およびE19:浸潤性子宮頸癌については、HIVによる免疫不全を示唆する症状又は所見がみられる場合に限る
b.HIV感染症/エイズの治療
抗HIV療法(HAART)の治療開始の基準としては、血中CD4陽性リンパ球数が200/μlでは治療を開始し、200/μl〜350/μlではCD4陽性リンパ球数の減少速度が速い場合や血中ウイルス量が高値の場合、治療開始を考慮するように薦められている。本基準を満たさないでも、口腔カンジダ症など、何らかの症状を認める症候性HIV感染症には、抗HIV療法を開始する。それまでに一度も血中HIV抗体検査がされておらず、ニューモシスチス肺炎などエイズで発症し、診断された状態ですでに血中CD4陽性リンパ球数が200/μlを下回っている場合、発症している日和見感染症の種類によっては、その感染症の治療を優先し、そのあとでHAARTを開始したほうが良いこともある。詳細は成書に譲る。
c.HIV感染症の口腔症状
HIV感染に関連する口腔症状は、WHOによる下記分類がある。
歯科口腔外科で、口腔内所見からHIV感染あるいはエイズを疑うことは、非常に重要といえる。
7.歯科、口腔外科領域でのスタンダード・プリコーション(標準予防策)
標準予防策は、感染の有無あるいは感染病態のいかんにかかわらず、すべての患者の医療的ケアに際して普遍的に適応される感染予防概念である。この概念は、1996年に米国CDC(center for disease control and prevention、疾病管理予防センター)より提唱された。その目的は、@患者を交差感染から守る、A医療従事者の職務感染を防ぐ、という2点にある。その基本は、手袋と手洗いであり、以下の遵守が必要である。イ)血液、体液(汗を除く)や排泄物に触れるとき、創のある皮膚や粘膜に触れる可能性があるとき、あるいは血液や体液で汚染された物品に触れるときは手袋を着用する。手袋を外した後は抗菌性石鹸と流水またはアルコールをベースとした即乾式手指消毒薬を用いて手洗いをする。ロ)誤って血液や体液、創のある皮膚や粘膜に触れた後は、抗菌性石鹸を用いて直ちに手洗いをした後にアルコールをベースとした即乾式手指消毒薬を擦り込む。ハ)手指に目に見える汚染がある場合は、石鹸と流水による手洗いを行う。目に見える汚染がない場合は、アルコールをベースとした即乾式手指消毒薬を擦り込む。ニ)血液や体液などで衣服が汚染される可能性がある場合は、プラスティックエプロン(使い捨て)を着用する。ホ)血液や体液が飛散し、目、鼻、口を汚染する危険性がある場合は、マスクとゴーグルを着用する。ヘ)注射針はリキャップせずに使用直後に専用回収容器に捨てる。どうしてもリキャップが必要な場合、片手法(片手ですくうようにするので、スコップ法ともいう)で行う。
歯科口腔外科領域で、粘膜や唾液に触れる診療行為においては、かならず手袋着用する。手袋をつけて、その上からアルコール消毒すると材質が劣化し、手袋に微細な穴が開く。手袋は1処置ごとに使い捨てにする。手袋をしたまま診療録記載しない。脱いでから手洗いして、ボールペンを持つ。
歯科医師にとって、手袋、ゴーグル(メガネ)、マスクは必須で3種の神器といって過言ではない。
文 献
1)性感染症診断・治療ガイドライン.日本性感染症学会編.2004
2)抗菌薬使用のガイドライン:日本感染症学会・日本化学療法学会編、2005、協和企画
3)Akasaka S, Muratani T, Yamada Y, Inatomi H, Takahashi K, Matsumoto T:Emergence of cephems and aztreonam high-resistant Neisseria gonorrhoeae which does not produce β-lactamase. J Infect Chemother 2001;7:49-50.
4)西山貴子、雑賀 威、小林寅普A中山 宏、田中正利、内藤誠二:咽頭材料からのNeisseria gonorrhoeaeの検出用培地、変法Thayer Martin寒天培地(m-TM)の有用性。感染症学雑誌 2001;75:573-575.
5)熊本悦明、塚本泰司、杉山 哲、赤座英之、野口昌良、納谷敦夫、守殿貞夫、碓井 亞、香川 征、田中正利、簔輪眞澄、谷畑健生、澤畑一樹:日本における性感染症(STD)サーベイランス―2002年度報告―。日性感染症会誌 2004;15:17−45
6)池田 正一:HIV感染症の歯科治療マニュアル。2005厚生労働省エイズ対策研究事業 HIV感染症の医療体制の整備に関する研究(主任研究者:木村 哲)、HIV感染症の歯科医療に関する研究(主任研究者:池田正一)
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