病巣掻爬術およびロキシスロマイシンの長期投与が有効であった女児の慢性下顎骨骨髄炎の1例


森寺邦康、 岸本裕充、 野口一馬、 
高岡一樹、 浦出雅裕


A case of chronic osteomyelitis of the mandible in a young girl 
successfully treated with long-term administration of 
roxithromycin and curettage


Kuniyasu MORIDERA, Hiromitu KISHIMOTO, Kazuma NOGUCHI, 
KazukiTAKAOKA, Masahiro URADE


Abstract:A case of chronic osteomyelitis of the mandible in a ten-year-old girl who was treated with long-term administration of roxithromycin and curettage is reported. The patient was referred to our clinic with a chief complaint of diffuse swelling of the left cheek. Orthopantomography and CT examination showed diffuse osteolytic area with osteosclerosis of the ramus. By biopsy, the lesion was diagnosed as chronic osteomyelitis of the mandible. Although antibiotics including roxithromycin and cephems were administered, symptoms were repeated. Long-term administration of roxithromycin for 5 years combined with curettage of the lesion twice improved the symptoms ultimately without jaw deformity. It was considered that these clinical effects were obtained due to the activities of roxithromycin, a macrolide antibiotic containing 14-membered lactone ring, in immuno-modulation to chemotaxis of neutrophil, production of superoxide, proliferation of monocytes and macrophages, T cell activation and production of proinflammatory cytokines, as well as antibacterial action. 

Key Words:chronic osteomyelitis of the mandibule (慢性顎骨骨髄炎)、 young girl (女児) long-term therapy roxithromycin (ロキシスロマイシン長期投与) 緒  言 慢性下顎骨骨髄炎は日常臨床でしばしば遭遇する難治性の顎骨炎症性疾患のひとつであり、 抗菌薬が進歩した現在でさえ臨床経過が長く、 顎変形や顎関節強直症などにより機能障害を残すことが多い。 治療法としては、 薬物療法と外科療法がある。 腐骨分離型骨髄炎の治療成績は比較的良好であるのに対し、 びまん性骨髄炎については外科療法を中心に種々の治療法 1-8)が検討されているものの、 術後に再燃する症例が多く、 治療に苦慮することが多い。 
 今回われわれは、 女児に発生した慢性下顎骨骨髄炎に対して、 病巣掻爬術およびロキシスロマイシンの長期投与を行うことにより顎変形をきたすことなく治癒した1例を経験したので若干の考察を加え報告する。
症  例 患 者:10歳、 女児。 
 初 診:1995年8月10日。 
 主 訴:左側頬部腫脹および疼痛。 
 既往歴:特記事項なし。 
 家族歴:特記事項なし。 
 現病歴:1995年5月頃より左側下顎大臼歯部に鈍痛を認め、 微熱および頭痛を伴うようになった。 6の歯科処置を受けるも症状持続し、 6月下旬には左頬部の腫脹も認めるようになった。 数か所の病院 (内科) を受診するも原因は不明であった。 抗菌薬を投与されると症状は一時的に軽快するが再燃を繰り返した。 7月下旬には疼痛の増悪と、 38℃台の発熱を認めたため、 近病院を7月28日に受診し入院となった。 同院にてセフタジジムとクリンダマイシンの点滴静注を受けるも症状が改善しないため、 8月4日当院耳鼻咽喉科に転院となった。 パノラマ X線写真にて左側下顎角部に X 線不透過像を認めたため8月10日歯原性腫瘍疑いで、 当科を紹介受診した。 
 現 症:
 全身所見:身長140cm 体重31kg と体格中等度、 栄養状態は良好で経口摂取は可能であった。 体温は37.4℃で全身倦怠感を認めた。 
 局所所見;
 口腔外所見;
 顔貌は左右非対称で、 左側頬部がびまん性に腫脹していた (写真1A)。 皮膚の緊張は軽度で、 発赤を認めなかった。 左側顎下リンパ節は示指頭大、 大豆大に触知、 右側顎下部リンパ節は小指頭大、 大豆大に触知したがいずれも可動性で圧痛を認めなかった。 オトガイ下、 頸部リンパ節は触知しなかった。 

 口腔内所見;
 左側下顎大臼歯部から下顎枝にかけて骨様硬の膨隆を認めた。 歯肉は正常色で、 軽度の圧痛を認めた。 開口量は10oであった。 
 パノラマ X 線所見:8歯胚の遠心部より下顎切痕におよぶ下顎枝に骨硬化像を伴う境界不明瞭な骨融解像を認めた。 右側下顎枝に比べ左側の下顎枝は幅径が広く骨変形を認めた (写真2)。 
 CT 所見:左側下顎枝は右側下顎枝に比べ約2倍に肥厚し、 皮質骨が一部吸収していた。 左側咬筋の腫大と下顎枝周囲の骨膜反応が著明であった (写真3)。 


臨床診断:左側下顎骨骨髄炎の疑い。 
処置および経過(図1):1995年8月25日、 全身麻酔下に生検および8埋伏歯抜去術を施行した。 病理検査の結果、 慢性下顎骨骨髄炎の診断を得た。 同年9月 2日退院となり、 ロキシスロマイシン (ルリッド ) 300r/日の内服を開始し、 外来にて経過観察を行っていたが、 同年10月初旬より症状増悪し、 左側顔面の軽度腫脹、 微熱を認めるようになり、 10月17日よりセフトリアキソン1g/日を3日間点滴静注し、 炎症症状は消失した。 10月19日に撮影した CT では下顎枝がさらに肥厚し病巣範囲が上方に拡大していた。 骨シンチにて、 左側下顎枝部に著明な集積像を認めた (写真4A)。 このため11月28日、 全身麻酔下に皮質骨除去術および病巣掻把術を施行した。 口内法で7遠心部から上方は下顎孔付近まで、 下方は下顎骨下縁まで、 後方は下顎角部までの皮質骨を除去し、 肉芽様組織および腐骨を除去した。 骨髄に相当する部分の骨は硬化しており出血はほとんど認めなかったがある程度出血を認めるところまで掻爬を行った。 
 退院後もロキシスロマイシン300r/日の再投与にて経過観察を行っていたが、 約5か月後の1996年4月下旬より左側頬部腫脹、 発熱、 開口障害が出現し、 セフォチアム1g/日を5日間点滴静注し、 症状改善した。 5月9日撮影の CT 写真にて、 前回手術した下顎角部の骨は治癒傾向を認めるが、 下顎切痕付近の骨が肥厚し種々の大きさの散在性骨吸収と骨髄腔の拡大が認められた。 このため6月4日に皮質骨除去術および病巣再掻爬術を全身麻酔下に施行した。 今回の手術は下顎切痕部まで掻爬を行うため、 口腔外切開を行った。 下顎孔から上方の皮質骨を下顎切痕部まで除去し肉芽様組織、 腐骨を掻爬した。 骨髄に相当する部分の骨は硬化しており、 出血もほとんど認めないのは前回手術時と同様であった。 また前回掻爬した下顎骨体部から下顎角部は骨形成を認め、 治癒良好と思われた。 
 可及的に病巣を掻爬したが再発例であるため術後トブラマイシン60r/日による持続灌流を2日間施行し、 6月19日退院となった。 外来でロキシスロマイシン300r/日の内服を続け経過観察を行った。 症状の急性増悪期にはロキシスロマイシンの投与を継続しつつその都度3〜14日間のβラクタム系抗菌薬の点滴静注または内服投与を行った。 1996年12月以降の1年間は点滴静注を必要とするほどの症状増悪を認めなかった。 1997年12月頃より開口障害、 発熱、 顔面腫脹を認め、 外来にてフロモキセフ1g/日の点滴静注による消炎を計るも、 症状増悪するため、 1998年2月9日入院となった。 入院下でのパニペネム/ベタミプロン1g/日の点滴静注で症状改善した。 その後2000年2月までロキシスロマイシンの内服を継続したが症状の再燃ないため投与を終了した。 2002年11月7日の骨シンチ (写真4B) では左側下顎枝部への異常集積像は認めず、 パノラマ X 線写真でも左側下顎枝にわずかに X 線透過像を認めるのみで、 左右の下顎枝はほぼ同様の形態を示した (写真5)。 2003年12月現在、 開口量43oと開口障害なく、 顔貌も左右対称 (写真1B) で経過良好である。 
考  察 若年者の顎骨骨髄炎は成人に比べると発生頻度が少なく、 抗菌薬の発達や小児における重症う蝕の減少により、 骨髄炎を発生する小児も減少してきている。 また小児の歯の交換期には顎骨内に永久歯胚が存在し、 さらに小児の下顎骨骨髄は反応性に富んだ骨髄が多く、 成人の顎骨骨髄炎とは異なった様相を呈することから他疾患との鑑別が重要である。 このため本症例でも Ewing 肉腫、 線維性骨異形成症、 Paget 病 9)などと鑑別するために生検を施行した。 
 下顎骨骨髄炎は Yoshiura らの分類 10)では1) 腐骨分離型、 2) 限局性吸収型、 3) びまん性硬化型、 4) びまん性混在型の4型に分類される。 X 線所見から本症例はびまん性混在型と考えられるが、 びまん性硬化型および混在型の手術後の再燃率は高く、 特に病変が顎角部や下顎枝部に及んだものは、 吉位ら 1)によれば100%再燃がみられると報告されており、 本症例においても1回の手術では不十分で再燃を認め、 2回の手術を施行した。 
 工藤ら 11)によって、 びまん性汎細気管支炎に対するエリスロマイシン少量長期投与の有用性が報告されて以来、 難治性で再発性慢性感染症の治療 12-16)に14員環マクロライド系抗菌薬が長期間用いられるようになっており、 その安全性についても十分に検討されてきた。 
 このため、 慢性下顎骨骨髄炎の本症例に対し、 ロキシスロマイシンの長期投与を試み、 2回の病巣掻爬術と約5年間ロキシスロマイシンを投与することにより治癒に導くことができた。 治癒した理由を考察してみると外科的な病巣部の徹底的掻爬に加えて、 治療期間中に起炎菌を同定できなかったが、 14員環マクロライドの抗菌力とその付加的な作用が働いたと考えられた。 抗菌力以外の付加的作用として、 好中球の化学的走化性の抑制、 活性酸素産生の抑制、 単球やマクロファージの分化促進、 T リンパ球の活性抑制などの免疫調整作用が報告されている 18-21)。 さらにロキシスロマイシンにより骨の吸収や添加など骨改造調整に大きな役割をはたすサイトカインが抑制されると報告されており 17)、 相対的に骨の添加が促進されたと考えられた。 
 なお本症例に対し5年間ロキシスロマイシンを投与していたが、 胃部不快感など消化器症状が出現した場合はその都度、 胃粘膜修復促進薬の投与により症状は消失し、 長期投与が可能であった。 また臨床検査値に異常は認めなかった。 
 長期投与における14員環マクロライド系抗菌薬の作用機序については、 まだ明らかにされていない点も多いが、 抗菌力以外の付加的作用が注目されている。 
結  語
 今回われわれは、 10歳女児に生じた慢性下顎骨顎髄炎に対し、 2回にわたる病巣掻爬術およびロキシスロマイシンの長期投与にて治癒に導くことができた1例を経験したのでその概要を報告した。 
 本論文の要旨は、 第13回日本口腔感染症学会総会 (平成16年11月13日、 大阪) において発表した。 
引用文献1) 吉位尚、 麻柄真也、 他:慢性下顎骨骨髄炎における外科的療法施行例の検討―X線所見と患者背景、 治療成績について. 歯薬療法19:14-21, 2000. 
2) Montonen M.,Iizuka T.,et al:Decortication in the treatment of diffuse sclerosing osteomyelitis of the mandible. Oral Surg Oral Med Oral Pathol 75:5-11, 1993. 
3)手島貞一、 町田興成、 他:慢性下顎骨骨髄炎の臨床的観察 第1編 臨床統計的考察. 日口外誌 24:83-88, 1978. 
4)松本 憲、 生沢 操、 他:慢性下顎骨骨髄炎の治療における Septopal chain の使用経験. 歯薬療法8:261-266, 1989.
5)堀内克啓、 川上哲司、 他:慢性下顎骨骨髄炎の治療に対する局所灌流法 (閉鎖式持続洗浄療法) について. 日口外誌33:1207-1216, 1987.
6)生澤 操、 松本 憲、 他:抗生物質含有 PMMA ビーズを用いた下顎骨骨髄炎手術例の長期経過観察. 日口外誌 43:729-732, 1997.
7)和田 健、 畑 祥子、 他:び慢性硬化性下顎骨骨髄炎に対するウロキナーゼと抗菌剤を用いた動注療法の試み. 日口外誌 43:413-415, 1997.
8)奥富 直、 小島 良、 他:浅側頭動脈注入法および局所灌流法を併用した難治性下顎骨骨髄炎の1例. 日口外誌 28:445-449, 1982.
9)Eversole,L.R.,Leider,A.S.,et al : Proliferative periostitis of Garre's: its differentiation from other neoperiostoses.
J Oral Surg 37:725-731, 1979.
10)Yoshiura, K.,Hijiya, E.,etal:Radiographic patterns of osteomyelitis in the mandible Plain film/CT correlation. Oral Surg Oral Med Oral Pathol 78:116-124, 1994. 
11)工藤翔二、 植村健司、 他:びまん性汎気管支炎に対するエリスロマイシン少量長期投与の臨床効果―4年間の治療成績. 日胸疾会誌 25:632-642, 1987.
12)吉位 尚、 濱本嘉彦、 他:びまん性硬化性下顎骨骨髄炎に対するマクロライド長期投与に関する臨床的研究
―Roxithromycin 投与での長期観察例について−. 口科誌48:479-488, 1999.
13)宇野芳史、 齋藤龍介、 他:副鼻腔炎へのロキシスロマイシン少量長期投与. 耳鼻臨床 86:439-445, 1993.
14)守田雅弘、 原田 保、 他:滲出性中耳炎への RMX 少量長期投与の効果. 耳鼻臨床89:117-126, 1996.
15)南 豊彦、 久保伸夫、 他:慢性副鼻腔炎に対するルリッド 少量長期投与―上顎洞機能検査を用いた客観的評価―. 耳鼻臨床88:1229-1236, 1995.
16)洲崎春海、 杉田公一、 他:エリスロマイシンはなぜ慢性汎細気管支炎に効くのか−びまん性汎細気管支炎合併する慢性副鼻腔炎に対する効果―. Ther Res 11:29-31, 1990.
17)麻柄真也、 吉位 尚、 他:実験的骨髄炎における Roxithromycin のサイトカイン (IL-6,IL1β) に対する抑制効果. 口科誌 47:24-32, 1997.
18)増谷喬之、 澤木政好、 他:Erythromycin による Pseudomonas aeruginosa の Elastase 産生抑制作用について. 感染症誌 63:1212-1214, 1989.
19)羽柴基之、 近藤清隆、 他:Roxithromycin の細菌 Biofilm 産生におよぼす影響. 日本耳鼻咽喉科感染症研究会会誌 13:168-174, 1995.
20)間宮紳一郎、 高木一平、 他:ロキシスロマイシンの好中球機能に与える影響. 耳展 38:214-219, 1995.
21)Keicho N.,Kudoh S.,et al:Antilymphocytic activity of erythromycin distinct from that of FK506 or cyclosporin A. J Antibiotics46:1406-1413,1993.
 istinct from that of FK506 or cyclosporin A.J Antibiotics46:1406-1413, 1993.