パミドロネートの投与が奏効したびまん性硬化性下顎骨骨髄炎の1例

古土井春吾 1)、 吉位 尚 2)、 谷本 博 1)
中尾百合子 1)、 後藤育子 1)、 古森孝英 1)


A case of diffuse sclerosing osteomyelitis of the mandible 
successfully treated by pamidronate administration 

Shungo FURUDOI 1), Takashi YOSHII 2), Hiroshi TANIMOTO 1),
Yuriko NAKAO 1), Ikuko GOTOU 1), Takahide KOMORI 1)

 

Abstract:Diffuse sclerosing osteomyelitis of the mandible (DSOM) is uncommon. Recurrent swelling and pain in the mandible are typical symptoms. These symptoms tend to recur after therapy with antibiotics, hyperbaric oxygen or surgery. Recently, intraveneous pamidronate administration was reported to improve DSOM. We report a case of DSOM to pamidronate therapy.
 A 31-year-old woman was referred to our department because of right mandibular pain on January 17, 1997. X-ray findings showed both sclerotic zones and osteolysis areas of the right mandible. According to the clinical diagnosis of DSOM, we performed the long-term roxithromycin treatment. However, the symptoms were not improved. Therefore, we tried intraveneous pamidronate(30mg) administration on march 22, 2004. The pain disappeared within 24 hours. At follow-up 1 year and 6 months after administration, the patient did not complain of recurrent pain and osteolysis areas of right mandible were disappeared on X-ray findings.

Key Words:diffuse sclerosing osteomyelitis (びまん性硬化性骨髄炎), mandible (下顎骨), bisphosphonate (ビスホスホネート), pamidronate (パミドロネート) 

1 神戸大学大学院医学系研究科器官治療医学講座顎口腔機能学分野 (主任:古森孝英教授) 
  Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Kobe University Graduate School of Medicine (Chief:Prof. Takahide Komori)
2 よしい歯科口腔外科クリニック (主任:吉位尚院長) 
  Yoshii Oral Surgery Clinic (Chief:Takashi Yoshii)
〔2005年9月16日受付、 2005年10月7日受理〕 

緒  言
 びまん性硬化性下顎骨骨髄炎は、 発症頻度は高くないものの、 抗菌薬の投与、 高圧酸素療法、 外科的療法などを行っても再燃しやすく、 治療に難渋することが多い疾患である 1)。 当科ではびまん性硬化性下顎骨骨髄炎に対して14員環マクロライド系抗菌薬を用いた長期療法を行い、 比較的良好な結果が得られたが 2)、 改善のみられない症例も経験してきた。 一方、 近年になり、 強力な骨吸収抑制作用を有するビスホスホネートが、 びまん性硬化性下顎骨骨髄炎に対して有効であるとの報告がみられるようになった 3−5)。 
 今回、 マクロライド系抗菌薬の長期療法で改善のみられなかったびまん性硬化性下顎骨骨髄炎に対して、 第二世代のビスホスホネートであるパミドロネート(アレディア ) を経静脈的に投与し、 疼痛が消失した1例を経験したので報告する。 

症  例
患 者:31歳、 女性。 
初 診:1997年1月17日。 
主 訴:右下顎の疼痛。 
既往歴:家族歴:特記事項なし。 
現病歴:1995年10月頃より右下顎の疼痛を自覚し、 近医歯科で右下顎第二小臼歯の根管治療を受けるも改善しないため、 1996年1月に抜歯された。 しかし、 その後も右下顎の疼痛が持続し、 同年8月に右下顎智歯を抜歯されるも、 激烈な疼痛が繰り返し出現するため、 紹介により1997年1月17日に当科を初診した。 
現 症:
全身所見;体格は中等度で、 栄養状態は良好であった。 
口腔外所見;開口量43o。 右下顎骨下縁から下顎角部に軽度の腫脹と圧痛が認められた。  
口腔内所見;口腔内に腫脹、 発赤はみられなかった。 
画像所見:パノラマ X 線写真や CT 所見では、 右下顎骨体部から下顎枝にかけて不透過性の亢進した硬化像とびまん性の骨吸収像の混在が認められた (写真1、 2)。 


臨床診断: びまん性硬化性下顎骨骨髄炎
処置および経過:初診日より Roxithromycin (RXM:300r/日)の長期投与を開始したが、 右下顎部に経度の腫脹と激しい疼痛が繰り返し出現する状態が続いた。 RXM と Levofloxacin (LVFX:300r/日) の併用や RXM から Clarithromycin (CAM:400r/日) や Azithromycin (AZM:500r/週) への変更も一定期間行ったが、 症状の改善はみられなかった。 この間、 3か月ごとに血液検査を行ったが、 抗菌薬や鎮痛薬の長期服用による副作用は認められなかった。 初診より約7年が経過した2004年3月8日に撮影したパノラマ X 線写真では、 右下顎骨体部の骨吸収像は骨硬化像に変化していたが、 右下顎角から下顎枝にかけて下顎管の周囲に骨吸収像が残存していた (写真3)。 

 このままマクロライド系抗菌薬の投与を続けても改善しないと考えられたため、 2004年3月22日に、 患者の同意を得たうえで、 パミドロネート30rの点滴静注を4時間かけて行った。 その結果、 投与翌日から疼痛は消失し、 副作用としては一過性の筋肉痛を訴えたのみで発熱はみられなかった。 投与1週間後の血液検査でも血清 Ca 値を含め異常値は認められなかった。 
 その後、 無症状のまま経過し、 投与1年後のパノラマ X 線写真、 CT では、 残存していた右下顎角から下顎枝にかけての骨吸収像が消失し、 骨硬化像に変化しているのが認められた (写真4、 5)。 投与後1年6か月が経過した現在も、 疼痛は全くみられていない (図1)。 


考  察
 ビスホスホネートは生理的な石灰化抑制物質であるピロリン酸の類似化合物であり、 破骨細胞の機能抑制による骨吸収抑制作用を有するため、 骨粗鬆症の治療薬として注目されている 6)。 パミドロネートは第二世代のビスホスホネートで、 第一世代よりも強力な骨吸収抑制作用を発揮することが知られている。 パミドロネートは本邦では悪性腫瘍による高カルシウム血症の治療薬として承認されているが、 他に癌の骨転移 7、 8)、 多発性骨髄腫 9)、 骨形成不全症 10)などに用いられ、 骨痛緩和効果、 溶骨性病変の改善効果などが報告されている。 
ビスホスホネートの骨吸収抑制の作用機序としては、 破骨細胞に対する直接的作用と間接的作用が考えられている。 直接的作用としては、 骨に取り込まれて基質内に蓄積したビスホスホネートが骨吸収の際に破骨細胞に入り込み、 破骨細胞のアポトーシスを惹起するという報告があり 11)、 間接的作用としては、 ビスホスホネートがまず骨芽細胞に作用することで、 骨吸収促進活性物質の産生抑制や骨吸収抑制活性物質の産生促進をもたらし、 破骨細胞の活性に影響するという報告がみられる 12、 13)。  
 ビスホスホネートのびまん性硬化性下顎骨骨髄炎に対する有効性については、 Montonen ら 3)の第一世代のクロドロネートを用いた報告が最初であり、 その後 Soubrier ら 4)や藤田ら 5)がパミドロネートを用いて報告している。 疼痛緩和効果の発現時期については、 クロドロネートでは投与後約6か月と報告されているのに対し 3)、 パミドロネートでは投与後72時間以内と即効性が高く 4)、 本症例でも投与翌日より疼痛の消失がみられた。 
 当科では、 びまん性硬化性下顎骨骨髄炎に対して RXM の長期投与を行ってきたが、 これは14員環マクロライドの抗菌力以外の作用、 特に種々のサイトカイン産生の抑制などの抗炎症効果を期待したものである 2)。 われわれが行った実験的骨髄炎モデルを用いた検討でも、 RXM の長期投与により骨吸収に関わるサイトカインである IL-1βや TNF-αの産生抑制が認められた 14)。 パミドロネートにおいても、 破骨細胞に直接的および間接的に作用することで、 これら骨吸収に関わるサイトカインに影響を及ぼすものと考えている。 
 疼痛緩和効果の持続期間については、 ビスホスホネートの骨への蓄積量に影響すると考えられる。 ビスホスホネートはハイドロキシアパタイトに強い親和性を有するために半減期が長く 15)、 1回の投与で長期間の効果を期待できる。 本症例は投与後約1年6か月が経過しても無症状のまま推移しているが、 今後も長期の経過観察を予定している。 
 X 線所見では、 本症例は約7年間にわたるマクロライド系抗菌薬の長期投与を行い、 右下顎骨体部の骨吸収像は消失したものの、 右下顎角から下顎枝の骨吸収像が残存した。 これに対し、 パミドロネート投与後は約1年で残存した骨吸収像の消失が認められた。 これは、 疼痛の誘因となっていた破骨細胞の活性化が、 パミドロネートにより抑えられた結果であると推察される。 
 ビスホスホネートの副作用としては、 低カルシウム血症、 発熱、 腎機能障害 16) などが知られているが、 最近になり、 パミドロネートの投与後に顎骨壊死をきたしたという報告が海外および国内でみられるようになった 17)。 原因についてはまだ明らかではないが、 パミドロネートにより破骨細胞の機能が抑制されて骨硬化がおこり、 血行障害をきたした部位に抜歯などの侵襲が加わった場合、 顎骨壊死をきたす可能性は否定できない。 したがって、 パミドロネート療法を行う場合は、 適応症例を十分に検討する必要がある。 本症例のように画像所見で骨吸収像が認められ、 破骨細胞の活性化が疼痛の誘因となっているびまん性硬化性下顎骨骨髄炎はパミドロネートの適応と考えられるが、 骨吸収像が認められない症例では、 症状の原因や程度を十分に検討したうえで投与を決定するべきである。 また、 パミドロネート投与後に抜歯などの侵襲的処置を行う場合は、 顎骨壊死をきたす可能性を考慮し、 慎重に対処することが望ましい。 
 以上のことより、 本症例に対するパミドロネート療法は、 1回の投与で迅速に疼痛が消失し、 効果も持続して副作用もみられないことから、 有効な治療法であると考えられた。 今後さらに症例を増やし、 びまん性硬化性下顎骨骨髄炎に対するパミドロネートの有効性について、 検討を重ねていきたいと考えている。 


引用文献
1) 吉位 尚、 麻柄真也、 他:慢性下顎骨骨髄炎に関する臨床的検討 第1報:過去25年間の外科的療法施行例について. 日口診誌13:80−84, 2000.
2) 吉位 尚、 濱本嘉彦、 他:びまん性硬化性下顎骨骨髄炎に対するマクロライド長期治療に関する臨床的研究. 口科誌48:479−488, 1999.
3) Montonen M., Kalso E., et al.:Disodium clodronate in the treatment of diffuse sclerosing osteomyelitis(DSO) of the mandible. Int J Oral Maxillofac Surg 30:313-317, 2001.
4) Soubrier M., Dubost J. J., et al.:Pamidronate in the treatment of diffuse sclerosing osteomyelitis of the mandible. Oral Surg Oral Med Oral pathol Oral Radiol Endod 92:637−640, 2001.
5) 藤田善教、 菅田辰海、 他:パミドロネートが有効であったびまん性硬化性下顎骨骨髄炎の2例 (抄). 日口外誌 50:39, 2004.
6) Fleisch H., Russel, R. G. C., et al. : Diphosuphonates inhibit hydroxyapatite dissolution in vitro and bone resorption in tissue culture and in vivo. Science165:1262−1264, 1969.
7) Hortobagyi G. N., Theriault R. L., et al.:Efficacy of pamidronate in reducing skeletal complications in patients with breast cancer and lytic bone metastasis. N Engl J Med 335:1785−1791, 1996.
8) 小山内俊久、 朝比奈一三、 他:癌骨転移に対するパミドロネート療法―骨痛改善効果および画像所見の検討―. 臨整外35:243−249, 2000.
9) 平山泰生、 辻  靖、 他:週1回の pamidronate 長期投与が有効であった治療抵抗性多発性骨髄腫の1例. 内科90:193−195, 2002.
10) 篠原麻由:骨形成不全症に対するビスフォスフォネートの効果. 日児誌106:1427−1433, 2002.
11) Hughes D. E., Wright K. R., et al.:Bisphosphonates promote apoptosis in murine osteoclasts in vitro and in vivo. J Bone Miner Res 10:1478-1487, 1995.
12) Sahni M., Cuenther F. L., et al.:Bisphosphonates act on rat bone resorption through the mediation of osteoblasts. J Clin Invest 91:2004-2011, 1993.
13) Vitte C., Fleisch H., et al.:Bisphosphonates induce osteoblasts to osteoclast-mediated resorption. Endo- crinology 137:2324−2333, 1996.
14) Yoshii T., Magara S., et al.:Inhibitory effect of roxithromycin on the local levels of bone-resorbing cytokines in an experimental model of murine osteomyelitis. J Antimicrob Chemother 50:289−292, 2002.
15) Kasting G. B. and Francis M. D.:etention of etidronate in human, dog, and rat. J Bone Miner Res 7:513−522, 1992.
16) Hintze K. L., D'Amato R. A., et al.:Comparative toxicity of two diphosphonates. Toxycologist 2:192, 1982.
17) Ruggiero S. L., Mehrotra B., et al:Osteonecrosis of the jaws associated with the use of bisphosphonates.:A review of 63 cases. J Oral Maxillofac Surg 62:527−534, 2004.