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4) カウンセラーの立場から
国立病院機構 大阪医療センター
HIV/AIDS先端医療開発センター
臨床心理士 安尾 利彦
HIV 感染症についてはその身体面のケアはもちろん、
心理社会的側面への支援の重要性が指摘されている。
自らの HIV
感染を知るという事態そのものが様々な心理的葛藤を引き起こすわけであるが、
そのような葛藤への支援の1つとしてカウンセリングが利用されていると考えられる。
本稿では、 筆者が日頃の HIV
感染症の領域における心理臨床活動を通して経験的に考えていることを中心に、
HIV 陽性者の心理、
特に歯科診療を巡る心理について述べたい。
HIV 感染告知以後に HIV
陽性者の多くが感じる様々な心理的葛藤の中からいくつかを挙げるとすれば、
以下のようになるであろう。
感染したことへの憤りや羞恥心、
疾患を巡る否定的イメージやスティグマの内在化による自己イメージの低下、
比較的新しい疾患であることによる予後の不確実さへの不安、
人間関係上の不自由さ、 服薬や受診を巡るストレス、
長期的な療養生活による精神的疲弊などである。
中でも、 それまで疑いもしなかった
「健康な自己イメージ」 が失われ、 ある日突然
「病者としての自分」 を意識化させられることは、
心理的危機状態を引き起こす可能性があると考えられる。
決して HIV
陽性者全てが大きな危機状態を体験するわけではないが、
場合によっては療養生活への適応が阻害されたり、
精神症状や不適応状態が悪化あるいは顕在化することも生じうる。
またカウンセリング場面の中では、 HIV
陽性者が歯科受診を巡って感じる様々な葛藤が語られることがある。
それらは、
歯科において病名を告知することそのものへの抵抗感や、
診療拒否や医療者の批判的・拒絶的な態度への恐れのほか、
守秘やプリコーションなどの体制を巡る不安などであるが、
このような葛藤に十分に向かい合った上で病名告知をして歯科受診するケースが多いとは言え、
中には葛藤が強いあまり受診すること自体を避けてしまうケースも存在する。
このような葛藤の背景には、
やはりこの疾患に付きまとう否定的なイメージが大きく存在していると考えられる。
現時点では根治が望めない、
放置しておくと死に至る疾患であること、
またセックスによってウイルスが感染すること、
そして性的マイノリティ、
つまりホモセクシュアル男性の間で陽性者が増加していることなどといったこの疾患の特徴が、
多くの人々に 「危険」 「混沌」 「無責任」 「淫ら」
といったイメージを喚起するのであろう。
このようなネガティブなイメージは、 HIV
陽性者自身が感染した事実を引き受けることを阻害するだけでなく、
支援する医療者の側にも陰性の逆転移、
つまり援助者側に生じる対象へのネガティブな感情が引き起こされやすくなると考えられる。
このように様々な否定的なイメージが付与された疾患に感染していることを陽性者が否認、
つまり十分心理的に引き受けなかった場合には、
その結果として十分なセルフケア行動を取ることが困難となることが予測される。
しかしながら、
多くの陽性者にとって転機となりうるのは、
医療者による適切な支援の提供、
治療関係へのコミットメント、
中立的で支持的な態度であると考えられる。
このような医療者の態度は、
疾患を巡るネガティブなイメージを中和し、
陽性者が疾患を引き受けることを促進し、
適切なセルフケア行動に結びつきうると言えよう。
まとめとして、
カウンセリング場面で聞かれる歯科診療を巡って HIV
陽性者が願っていることを列記するとすれば、
「疾患を中立的に理解してほしい」
「その上で患者として受け入れてほしい」
「施設間・診療科間で連携してほしい」
「適切な説明と治療をしてほしい」
「プライバシーを守ってほしい」
「自分のライフスタイルに合ったものであってほしい」
という点になると考えられる。 しかしながら、
これらの要望は決して HIV
陽性者の歯科医療であるから生じるものではなく、 HIV
感染の有無に関わらず誰もが医療全般に対して抱く基本的な要望なのではないだろうか。
陽性者の多くは決して特別なケアや擁護を求めているのではなく、
ごく当たり前の医療を期待しているということであり、
逆に言えば、
当たり前のことさえ手に入りにくいという窮屈さを感じているのであろう。
最後となるが、 先に HIV
に感染したことを知ることは、
「病者のとしての自分」
を意識することであると述べた。 確かに HIV
感染を知ることによって、
それまでなんの疑問もなく抱いていた 「健康な自分」
イメージが損なわれ、 現時点では二度と 「HIV
陰性の自分」 には戻れなくなるのが現実である。
しかしながら、 感染がわかった後
「自らの身体と心の健康に意識的な自分」
という自己イメージを獲得することが可能であるということを、
筆者は HIV
陽性者とのカウンセリングを通して感じている。
そしてこの変化のプロセスにおいては、
医療者によって適切にケアされる体験が重要な促進要因として働いていると考えている。
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