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2) 臨床歯科医の立場から
前田 憲昭
Dr,M.Glick は 「歯科医師は、 日常の生活の中で、 HIV
感染患者を発見する役割を果たす」
と口腔病変の観察が、
血液による感染のスクリーニングにも勝ることを強調している。
感
染の自覚がないままに、 AIDS
を発症して病院を受診することが問題化しているなか、
感染の発見が口腔症状である症例の増加が予測される。
本シンポジウムでは、 日本ウイルス学会誌
「ウイルス」 に掲載された松下修三氏の論文1) 「HIV
感染症の治療の現状と問題点」 を軸に、
開業医が感染症患者の治療に取り組みにくい現状に解析を加えた。
1:根本療法ではない(HIVを根絶できない)
抗ウイルス薬療法は HIV
感染患者の予後の改善にめざましい成果を挙げているが、
根治を達成するには至っていない。 したがって、
治療の長期化によって、 受診の中断、
放棄など継続管理の困難さが表面化する事実がある2)。
しかし、 これは HIV 感染に限られたことではなく、
慢性疾患に共通である。
口腔では歯周病も代表的な慢性疾患であるが、
国民的レベルでの意識の低さを反映して、
継続管理は非常に困難であり、 HIV
感染者の口腔衛生管理にも同様の傾向が明らかである。
今回、 当院における HIV
感染患者の口腔状態と衛生管理意識調査結果3)についても触れたが、
症状が出た時にのみ来院する 「急性症状患者」
とその症状が消失しても、
将来の健康管理を意識して、
継続管理をする患者を比較すると、
歯周病の病状の改善、 維持が、
後者で有意に良好な結果を示していた。 したがって、
慢性疾患管理に優れた歯科診療所でなければ、
歯周病はもとより、 HIV
感染患者の治療を担当することは困難と思われる。
2:HIVによる薬剤耐性の獲得
RNA
ウイルスは増殖の過程で変異株を大量に産生することが特色の1つである。
もちろん、 その多くは増殖が出来ない株で、
生態系には影響を与えないが、 ごく一部の株は、
自然選択されて野生株の主流を占めるようになる。
したがって、
ウイルスの突然変異株に選択される可能性を与えないことが大切であり、
歯科治療と服薬に関わるスケジュールの調整に配慮する必要がある。
一方で、
複合薬剤の開発と血中濃度の維持に優れた技術が提供され、
服薬の形態が日々に更新されている。
担当歯科医師の知識、 情報の更新もまた必要である。
現在、 投薬の開始時期は、 ウイルス、 CD4 値、
臨床症状等の諸因子によって決定されている。
さらに、 世界での多くの症例が解析され、
休薬をすることの是非が論議されている。
このことは次の項目とも関連する重要な事項であり、
毎年更新される 「治療指針」
を充分に理解しておく必要がある。 なお HP
でも検索可能である。
3:抗ウイルス薬の長期投与による毒性の顕在化
長期投与における副作用としての口腔症状の観察が必要である。
歯科医師の詳細な観察と報告、
結果の集積への努力が必要で、
日本人における副作用は、
日本人が見つけなければならない。
4:抗ウイルス薬の薬物相互作用
歯科治療における投薬の問題を把握する。
新しい抗ウイルス剤の開発と併用薬剤の禁忌については、
インターネットあるいは拠点病院の薬剤情報
(例 国立病院機構大阪医療セン
ター) を利用して確認する。
5:服薬遵守 (アドヒアランス) の困難さ
症状が発現してから治療をする現在の歯科医療から、
個人の予後を推測しながら治療をする歯科医療への転換がなければ、
コンプライアンスもアドヒアランスも理解出来ない。
次
に来る症状を患者さんとともに考え、
対策を患者さん主導で実行する。
6:免疫再構築症候群
口腔は免疫の状態を反映する鏡である。
口腔は常在菌の棲み家である。
また歯周病には免疫が強く関与していることが知られている。
本症候は、 失われていた免疫能の回復により
局所での生物学的反応が再顕性化する。
口腔は好発部位になり易いと想像される。
7:治療費の高騰
開発国の問題とされているが、 今後、
国内でも患者が増えると、
患者の負担が重くなることが予想され、
患者が服薬をあきらめることがあるかも知れない。
手厚い医療がいつまで
継続されるか、 社会背景を注視する必要がある。
まとめ
臨床歯科医の基本的は、 standard Precautions4)
の実施能力を確保することである。
文献
1:松下修三、 「HIV 感染症の治療の現状と問題点」、
ウイルス、 第53巻、 第2号 P.141−146、 2003年12月
2:織田幸子 患者数の推移と傾向が示す問題と課題 国立病院機構大阪医療センター看護部 第18回近畿エイズ研究会学術集会抄録 2004年6月12日
3:田中 香 他、 当院における HIV
感染患者の口腔状態と衛生管理意識について
日本歯科衛生士会学術雑誌 第32巻、 2号、 47−49、
2003年
4:Guidelines for Infection Control in Dental Health-care
Settings-2003, MMWR, December 19, 2003, vol.52, No.RR-17
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