|
「病院における口腔ケア」
日本口腔感染症学会
副理事長 浦 出 雅 裕
抜歯などの歯科治療が感染性心内膜炎の原因となることは古くから知られており、 10年ほど前からは口腔内細菌の不顕性誤嚥による肺炎の発症が明らかとなっている。 さらに最近では、 歯周病による低体重児出生、 糖尿病の悪化、 動脈硬化の進行および梗塞性疾患の増加などが話題になっている。 これらは本学会が対象としてきた口腔感染症の原因菌が全身に影響を及ぼすという面で、 今後検討を重ねていかねばならない課題である。 私の所属する兵庫医科大学口腔外科では院内他科と協力して、 「口腔ケア」 という形でこの問題に取り組んできたが、 この場をお借りして 「病院における口腔ケア」 について考えてみたい。
ターミナルケアに代表されるように、 「cure から care へ」 と、 治療だけではなく患者さんの QOL も重視した概念が浸透しつつあり、 口腔ケアにおいても 「手が回らない」 などの理由で放置されていた口腔内保清の大切さが看護領域で注目されるようになってきた。 歯科領域では主に開業医の先生方が中心となり、 在宅や老人施設の患者さんを対象として 「往診」 の形で、 口腔内保清や義歯の治療、 さらには嚥下訓練まで実施されることがあると聞き及んでいる。 一方、 病院の歯科 (口腔外科) では、 抗癌剤の副作用による口内炎や歯肉出血への対応など、 開業医の先生方が普段目にすることが少ない患者さんへの対応が中心であった。 これは、 在宅や老人施設のような 「慢性期」 とは異なり、 主に 「急性期」 にある患者さんが対象であるため、 口腔に潜在的な問題点があっても見過ごされ、 医科側からの依頼が少なかった可能性が強いと思われる。 しかしながら、 口腔ケアの重要性が徐々に認知されるにつれ、 むしろ 「care から cure へ」、 つまり全身疾患の治療を行う上で不可欠なもの、 という評価も一部から得られるようになってきた。 「急性期」 ではやはり手術が主たる治療となるが、 本院においては、 最近、 手術侵襲が非常に大きく、 術後肺炎や吻合部感染を生じやすい食道癌手術症例を対象として、 術前から厳重な口腔管理を実施することにより術後合併症の発生が低下するという結果が得られている。 「病院歯科における口腔ケア実施に関する実態調査」 によれば、 このような周術期の口腔ケアを実施しているのは歯科の診療科を有する病院の30%弱にとどまっている。 歯科のない病院が全体の約85%であることから、 周術期の口腔ケアが実施されている施設はまだ非常に少ないと思われ、 本学会もその啓蒙活動の一翼を担う必要があると考える。
|