1) HIV/AIDSと歯科衛生士

−エイズ治療・研究開発センターの活動を通して−

国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター
財団法人エイズ予防財団リサーチ・レジデント
歯科衛生士 中野 恵美子

1. ACC の活動について
 エイズ治療・研究開発センター (AIDS Clinical Center:以下 ACC) は、 薬害エイズ被害者救済の一環として1997年に国立国際医療センター内に設立された。 2004年11月現在、 登録 HIV/AIDS 患者数は1500名を超えており、 感染経路は性的接触が78%、 血液凝固因子製剤感染が17%である。 ACC には治療・研究・情報提供・研修の役割があり、 歯科衛生士が担当している業務は、 1)口腔保健指導、 2)歯科受診相談・受診支援、 3)歯科医療従事者・HIV 医療従事者に対する情報提供・研修などである。 
 HIV 感染症の患者が長期にわたって治療を継続し、 全身状態を良好にコントロールするためには口腔保健は重要である。 セルフケアの基本である口腔清掃は non-HIV 患者と同様であるが、 歯間清掃、 舌清掃、 含嗽、 そして患者自身が口腔内の変化を早期発見するための口腔観察に重点を置いて指導を行っている。 また、 患者が安心して継続受診できる 「かかりつけ歯科医」 を持つための支援も行っている。 2004年9月末現在、 院内歯科口腔外科受診 HIV/AIDS 患者数は計512名、 患者の希望による外部歯科紹介事例は182件である。 
2. HIV/AIDS の基礎知識 (for Dental Hygienists)
 HIV 感染症の病態を知るキーワードは、 CD4 陽性リンパ球数 (CD4) とウイルス量 (HIV-RNA) である。 CD4 は免疫全体の調整を行う司令官の役割があり、 多いほど免疫能が高い1)。 ただし CD4 は免疫の一部分であるため、 CD4 低値であっても歯科診療は可能である。 また、 ウイルス量は血漿1ml 中のウイルスの数であり、 少ないほど感染力が低い。 治療中は検出限界 (50コピー/ml) 未満が目標となる。 
 なお、 「HIV 感染者には対応可能であるが、 AIDS 患者は対応不可」 という歯科もあるが、 日本の診断基準では HIV 感染者が23の指定日和見感染症を発症して AIDS と診断されると、 治療により免疫が回復しても AIDS 患者のままである。 そのため CD4 低値でウイルス量も多い HIV 感染者や、 CD4 が高く、 ウイルス量が検出限界未満の AIDS 患者も存在する。 歯科においては、 診断区分よりも現在の状況把握が重要である。 
 日本の HIV/AIDS 患者は増加の一途を辿っており、 報告数約1万人は氷山の一角といえる。 また、 新たな感染者の増加により、 私たちがウインドウ期 (感染初期のウイルス量は多いが HIV 抗体検査陰性の期間) の患者に対応する機会も増えると考えられる。 
3. 歯科におけるHIV感染症対応の問題点と今後の課題
 1998年〜2001年に患者389名を対象に行った対面調査では、 歯科を受診した患者322名のうち、 歯科に HIV 感染を申告した患者は147名であり、 175名は未申告、 あるいは感染判明直前の受診であった。 医療機関別でみると、 拠点病院の歯科では96%が感染を申告していたのに対し、 一般歯科では86%が未申告あるいは未自覚であった。 
 一方、 2001年〜2003年に HIV/AIDS 患者の歯科診療対応を歯科医療機関に依頼した際、 歯科診療所・病院歯科共に、 約4割が 「対応可能」、 約6割が体制不備などを理由に 「対応不可」 と回答した。 
 暴露1回あたりの感染リスクは、 HIV はB型肝炎ウイルスの約100分の1、 C型肝炎ウイルスの約10分の1といわれているが、 歯科医療機関においては、 様々な感染症に気付かずに受診している患者を考慮に入れたスタンダードプリコーションの実施が必要である。 医療者が安心して診療できる体制を整えることは、 すべての患者の安全性を高めることにつながると考える。 
 今、 私たちが直面しているのは、 HIV 感染者の歯科診療に 「対応するか、 しないか」 ではなく、 「どのように対応していくか」 を考える時代である。 これから私たち歯科衛生士は、 自分たちに何ができるかを考え、 できることから実行していくことが求められている。 HIV/AIDS 患者は私たちの患者の一人であり、 患者全員に対して心を込めて歯科医療を提供することは私たちの責務である。 
文献
1) AIDS Clinical Center:ACC 患者ノート2004:2−9,2004.