『座長のことば』

大阪市立総合医療センター 口腔外科部長

座長:連  利 隆

 我が国の HIV 感染者は増加の一途を辿っており、 今後若者を中心に爆発的な拡大が懸念されていること。 HIV 感染症は治療法の進歩で慢性疾患となり、 HIV 感染者/AIDS 患者は長期にわたりキャリアとして生存できるようになったこと。 従って HIV 感染者の QOL の充実が求められる中で歯科を受診する機会が確実に増加すること。 一方で、 HIV 感染者の多くが HIV 感染を告げずに歯科を受診した経験をもっていること。 また、 感染しても免疫機能が低下するまで長期間ほとんど症状が出現しない HIV 感染症の特徴から、 その多くが自分の感染を知らずに歯科を受診していること。 等を今認識する必要があり避けて通ることはできません。 HIV 感染者の QOL の向上には、 口腔ケアや口腔衛生指導が不可欠で、 歯科衛生士の手助け、 役割が極めて重要です。 このことから、 HIV 感染症を正しく理解することによって差別意識を排除し、 日和見感染による口腔病変、 院内感染予防のノウハウと歯科診療介助の注意点等を研修して頂きたく、 このシンポジウムを企画しました。 シンポジストは日本でも HIV 感染/AIDS 患者の口腔管理に豊富な経験をもち、 第一線で活躍しておられる歯科衛生士さんにお願いし、 具体的で臨場感あふれる講演をして頂きました。 
 国立国際医療センターエイズ治療・研究開発センター (ACC) の中野恵美子さんは、 まず ACC の活動の紹介のなかで、 HIV 感染者が長期にわたって治療を継続し、 全身状態を良好に維持するためにはセルフケアの基本である口腔衛生指導が重要であること、 また HIV 感染を告げて歯科を受診することが患者と歯科医師・歯科衛生士双方にとって安全な歯科医療となり多くのメリットがあると指摘されました。 次に学生向きに HIV 感染症の病態について大変解りやすく解説して頂き、 今後の課題としてスタンダードプリコーシヨンの重要性を指摘されました。 皓歯会の溝部潤子さんは最新の米国 CDC の勧告に触れ、 血液、 精液、 膣分泌液に加えて診療中の唾液も HIV の感染源とされたこと。 できるだけ出血のない口腔内にすることも歯科衛生士の役目であること。 具体的な感染防御法として、 「感染源を持ち込まない、 持ち出さない」 という考え方から、 ラッピングの必要性とその具体的なテクニックを詳細に解説して頂きました。 森本浩公さんは経験した多くの HIV 感染者/AIDS 患者の中から、 口腔衛生指導に苦慮した3症例を基礎疾患との関連も含めて考察されました。 また、 HIV 感染者がもつ被差別的意識、 患者さんの免疫機能の把握と日々の体調、 基礎疾患、 個々の患者さんの社会的あるいは生活面や精神的背景にも十分配慮することが信頼関係の確立
に重要で、 それが口腔衛生指導に対するコンプライアンスに反映され、 結果を左右する要因であると解説されました。 そして、 これは HIV 感染者に限らず全ての患者に対する共通した姿勢であるとまとめられました。 
 最後に3名のシンポジストから参加学生に対して、 HIV 感染症を正しく理解することにより差別感を排除し、 HIV 感染症は他の感染症と同じ1疾患として接してほしいこと。 歯科衛生士として社会へ出たら各自の力で職場を変えてほしいこと。 そして、 基本を大切に自分が感染の媒体にならないように、 また臨床は応用であり、 そのためには基礎を大切にすること。 等のアドバイスが送られて終了した。 
 シンポジウムUには約80名の歯科衛生士と163名の学生が参加されました。 本シンポジウムは歯科衛生士および学生諸君にとって大変貴重で有意義な機会でした。 座長として高い評価を与えたいと思います。 これらの知識を頭の引き出しに整理し、 臨床の現場で活用して頂ければこの企画の役割が果たせたものと考えます。