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アトピー性皮膚炎患者に発症した重度な三叉神経第3枝領域の帯状疱疹の1例 岩城 太 大西正信
A case of severe herpes zoster in a patient
with atopic dermatitis Futoshi Iwaki, Masanobu Ohnishi Abstract:Varicella-zoster virus (VZV) infection causes varicella (chickenpox). Herpes zoster results from the VZV reactivation. The incidence of herpes zoster increases and the symptom becomes severe in patients with atopic dermatitis. Systemic antiviral therapy is recommended in patients beyond the age of 50,in immunodeficient patients, in the head and neck area and with atopic dermatitis. We report a case of severe herpes zoster in a patient with atopic dermatitis. A 21-year old woman complained of severe facial pain and paresthesia of the left side of the lower lip. Physical examination showed vesicle formation on the lower lip and multiple erosive mucositis of the gingiva and tongue on the left side. From these characteristic findings, clinical diagnosis of herpes zoster was made. Antiviral therapy was started immediately. Severe pain disappeared rapidly by administration of the intravenous acyclovir. The healing process was uneventful without post-herpetic neuralgia (PHN), but slight paresthesia of the lower lip was remaining. Early antiviral therapy against herpes zoster promotes healing, and may not leave complications. Key Words:herpes zoster (帯状疱疹), atopic dermatitis (アトピー性皮膚炎) 緒 言
帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルス (Varicella-zoster virus,VZV) の回帰感染症であり、 初感染では水痘を発症させる。 帯状疱疹は疼痛を伴うことが多く、 三叉神経領域では原因不明の頭痛や顔面痛を初発症状として、 疼痛が出現してから4〜5日で特有な皮疹が出現することで診断される場合が少なくない。 また皮疹消失後もときに難治性神経痛が後遺する事もあり、 慎重な治療と管理が必要とされる。 今回われわれは、 アトピー性皮膚炎を有する患者に生じた、 重度な三叉神経第3枝領域の帯状疱疹の1例を経験したので概要を報告する。
症 例]
患者:21歳 女性。
初診:2003年3月31日。
主訴:左側下唇と舌のしびれ感および口腔内の水疱形成。
既往歴:アトピー性皮膚炎にて治療中。
現病歴:2003年3月28日頃より発熱、 悪寒を認めるようになった。 3月30日頃から左側顔面痛および、 下顔面のしびれ感を生じるようになり、 休日であったことから当院救急外来にて鎮痛剤を処方された。 翌31日には口腔内に水疱性病変が多発してきたためかかりつけの歯科医院を受診したところ、 精査および治療依頼にて当科を紹介された。
現症:
全身所見;特記事項なし。
顔貌および口腔内所見;初診時、 発熱は認めなかったが激しい疼痛のため、 病歴聴取の際の会話も苦痛でできない状態であった。 耳介部に水疱形成などの異常はなく、 顔面神経麻痺も認めなかった。 左側の下唇には一部水疱形成を認め、 口腔内所見では、 舌および歯肉、 歯槽粘膜は、 水疱が破裂したと思われるビラン性の口内炎が左側に限局して多発しており、 接触痛が著しかった。 口腔内所見の写真記録を撮影しようとしたが、 困難であった。
臨床検査所見;血液および生化学検査において白血球数、 CRP、 BUN、 電解質ともに異常値を認めなかった。 水痘、 帯状疱疹ウイルス抗体価は4倍であった。
臨床診断:三叉神経第3枝領域の帯状疱疹
処置および経過:当初は痛みは強いものの、 何とか経口摂取も可能であったため、 外来通院にて補液を行うとともに、 塩酸バラシクロビル (バルトレックス〇R) 3000mg/日およびビダラビン (アラセナ-A〇R) 軟膏を処方した。 疼痛管理はロキソプロフェンナトリウム (ロキソニン〇R) 180mg/日にて行うこととした。 ところが翌日の4月1日になり、 口唇に限局していた水疱が、 オトガイ部皮膚全体へと拡がるとともに (写真1)、 口腔粘膜のビランが拡大し、 開口がほとんどできなくなった。 経口飲水も不可能であり、 入院下管理とした。
入院後は塩酸バラシクロビルの内服は一旦中止とし、 アシクロビル (ゾビラックス〇R) 750mg/日の点滴静注を開始した。 疼痛にはジクロフェナックナトリウム坐剤 (ボルタレンサポ〇R) 25mg/回を屯用とした。 4月2日の午後から少しずつ飲水やゼリーの摂取が行えるようになったため、 疼痛に対してはロキソプロフェンナトリウムの内服に切り替えたが、 ほとんど疼痛の訴えがなかったため屯用による管理とした。 オトガイ部皮膚の水疱形成はこの時期をピークに次第に痂皮となり、 入院4日目の4月4日には発熱もなく疼痛は完全に消失していた。 入院中の血液および生化学検査では白血球数や CRP 値の異常上昇はなく、 二次的細菌感染を疑わせる所見は認めなかった。 また白血球分類において血液像の異常はなく血液疾患の存在は否定された (図1)。 アシクロビルの点滴は4月5日まで継続し、 塩酸バラシクロビル内服に変更後、 入院7日目の4月7日に軽快退院とした。 退院後、 神経痛の訴えはなかったが、 三叉神経第3枝領域の知覚鈍麻の残存を認めたため、 メコバラミン (メチコバール〇R) 内服にて経過を観察していた。 退院後4ヶ月目に患者が突然来院しなくなったため、 その当時の皮疹の治癒後の記録はないが、 皮疹は瘢痕もなく完全に消失していた。
考 察
帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスの回帰感染で、 水痘が治癒した後に、 水痘・帯状疱疹ウイルスは後根神経節に潜伏している。 細胞性免疫が低下すると水痘・帯状疱疹ウイルスは後根神経節から末梢へと向かうことで、 当該神経領域の疼痛を生じるようになる。
発症頻度は高齢者と免疫低下のみられる者、 特に小児白血病患者や骨髄移植患者、 HIV 感染者に多く発症するとされている 1)。 好発部位は体幹および三叉神経第1枝領域であり、 三叉神経領域の初発症状としては、 第1枝領域では頭痛を訴えることも多く、 第2および3枝領域では神経痛様疼痛や歯痛を主訴とする場合もある。 罹患神経領域に沿って浮腫性の紅斑や水疱形成を伴っているような典型例では診断は容易であるが、 疼痛のみで皮疹を伴わない特殊な例も存在するようである 2,3)。
本例の場合初期症状は発熱と左下顔面部の激痛であった。 疼痛発現3日目には口腔内や神経支配領域皮膚に水疱が出現してくる典型例であり診断は容易であった。 皮疹や特徴的な水疱形成を欠く例で本症を疑う場合は、 水痘・帯状疱疹ウイルスに対する抗体価測定や polymerase chain reaction(PCR)により末梢血単核球から水痘・帯状疱疹ウイルス DNA の検出が有用であるとされている 3)。
治療法は軽症例では対症療法が行われるが、 顔面部のものや、 高齢者では初期から痂皮形成を認めるまでアシクロビルや塩酸バラシクロビルなどの抗ウイルス剤の経口投与が推奨されている 1)。 免疫不全患者の場合には通常、 抗ウイルス薬の点滴静注が行われる。 帯状疱疹の皮疹発症後48〜72時間以内の投与が治療効果を上げるポイントとされている 1,3)。 帯状疱疹の急性期におけるさらなる疼痛対策としては、 非ステロイド性消炎鎮痛剤や燐酸コデイン等の投与を行い、 疼痛が激しい重症例ではステロイド剤の全身投与や交感神経ブロックなどを積極的に行う。
帯状疱疹後神経痛 (post-herpetic neuralgia:PHN 以下 PHN と略) は帯状疱疹の皮疹治癒後の神経因性疼痛と定義されている。 一旦完成した PHN に決定的な治療法はなく、 ペインクリニック領域では、 三環系の抗うつ剤や抗けいれん剤、 抗てんかん剤などの投与などが行われているが、 完全に症状寛解には至らないようである 4)。 従って帯状疱疹治療においては、 できる限り PHN を残存させないことが重要と考えられる。 多くの帯状疱疹は PHN を残さずに治癒するが、 高齢や治療開始時期、 皮膚知覚障害、 皮疹の密度が危険因子と言われている 4)。 特に年齢は重要な因子で、 70歳以上では、 約70%に PHN が残存すると言われている 1)。 PHN 予防として特別な治療法はないが、 早期の抗ウイルス薬投与に加え、 疼痛が強い場合には、 ステロイドの全身投与や交感神経ブロックを積極的に行うなど慎重な初期治療が要求されている 2,4,5)。
本例では初診時の臨床症状から帯状疱疹と診断し、 抗ウイルス剤の投与を開始した。 当初から三叉神経第3枝領域に知覚低下があり、 皮疹の密度は免疫不全を思わせる程重度であったが入院中に疼痛が増強することはなく、 非ステロイド性消炎鎮痛剤によるコントロールで充分であった。 急性期疼痛は抗ウイルス剤の早期投与によりかなり軽減できたと考えられた。 皮疹の治癒後には神経痛症状の訴えは全くなかったが、 口唇の知覚低下の訴えが残存した。 いわゆる接触痛 (allodynia) や異常感覚 (dysesthesia) ではないものの、 帯状疱疹による非可逆的な神経損傷の結果であることは間違いないと考えられる。 軽度の知覚鈍麻は経時的に軽快するともいわれているが、 長期に経過観察できなかった。
アトピー性皮膚炎患者では、 単純ヘルペス感染症に罹患するとカポジ水痘様発疹症へ移行するなど重症化することが知られている。 帯状疱疹とアトピー性皮膚炎との関連について齋藤 6)らは水痘・帯状疱疹においても重症化の危険性が高く、 細菌二次感染の頻度も高いと報告している。 またアトピー性皮膚炎の存在は帯状疱疹の流行性が増加する因子であるとの報告もある 7)。 重度のアトピー性皮膚炎や湿疹を有している場合には、 免疫不全患者や高齢者などと同様に早期抗ウイルス剤投与が適応とされ (表1) 1)、 発症はまれではあるが、 小児の重症アトピー例では抗ウイルス剤の経静脈投与を推奨しているようである。 これらから重症化のメカニズムについては明らかでないが、 アトピー性皮膚炎の存在は帯状疱疹の増悪因子であることが示唆される。 本例が21歳の女性に発症し、 皮疹や水疱が重篤化した背景にはアトピー性皮膚炎に罹患していたことが関与していると考えられた。
帯状疱疹の一般的な臨床経過は、 皮疹の出現前に罹患神経領域の疼痛や知覚異常が認められるのが特徴である。 従って初期症状によっては歯科を受診するケースも少なくなく顎顔面部疼痛の鑑別診断を行う上でも重要な疾患であると思われる。 明らかなう蝕や炎症がないにもかかわらず、 激烈な歯痛や顔面痛を訴えるような場合には本症の発症も念頭におき慎重に経過をみるべきと考えられる。
随伴症状によっては他科との連携も考慮すべきと思われる。 三叉神経第1枝領域が罹患した場合には、 結膜炎や角膜炎を合併する場合があり、 眼科への対診は必須である。 耳介部の帯状疱疹に同側の顔面神経麻痺を合併する Ramsay-Hunt 症候群は、 耳鼻科領域の疾患として取り扱われるべきと思われる。 また本例のようにアトピー性皮膚炎を有している場合や重症例では治療経験の豊富な皮膚科医師の意見も重要であり、 急性期の疼痛が著しい場合にはペインクリニックの知識のある麻酔科医師に診察を依頼する必要もあると思われる。 口腔、 顎顔面領域を初発症状とする三叉神経領域の帯状疱疹においては、 初期診断医としての歯科医師の責任は重大である。 後遺障害を残さないためにも早期に診断し、 症状に応じて適切な治療、 処置を行うことが重要である。
結 語
21歳女性のアトピー性皮膚炎患者に発症した三叉神経第3枝領域の帯状疱疹の1例を経験したので、 概要を報告した。
引用文献
1) Gross G., Schofer H.,et al: Herpes zoster guideline of the German Dermatology Society (DDG).J Clin Virol 26:277-289, 2003.
2) 杉浦 丹:帯状疱疹のプライマリケア PHN を残さないために−症候性神経痛への対応と抗ウイルス薬十分量全身的投与の重要性−. 臨床と薬物治療 20:1043-1045, 2001.
3) 平田和彦 比嘉和夫:αヘルペスウイルス感染の予防治療 疼痛対策 (ペインクリニック). 日本臨床 58:951-956, 2000.
4) 橋爪圭司:非癌性疼痛の臨床−病態と治療− 帯状疱疹痛と帯状疱疹後神経痛. 日本臨床 59:1739-1742, 2001.
5) 調 裕治:帯状疱疹のプライマリケア PHN を残さないために−早期診断の重要性, 帯状疱疹関連痛に対するリドカインクリーム, カプサイシン軟膏の有効性を中心に−. 臨床と薬物治療 20:1034-1037, 2001.
6) 齋藤義弘 岡部信彦:アトピー性皮膚炎と合併した諸病変の診断と治療. アレルギー 免疫 10:180-184, 2003.
7) Rystedt I., Strannegard IL., et al:Infections as contributing factors to atopic dermatitis. Allergy 44:79-83, 1989. |