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肝炎の正しい理解のために
姫路赤十字病院 内科部長
奥 新 浩 晃
はじめに 近年、 B型肝炎ウイルスの他C型肝炎ウイルス患者においても口内から原因ウイルスが検出されるということが知られている。 1,2) C型肝炎は血液を介して感染することから、 歯科医や他の患者の皮膚や口内などに傷口があると、 そこから感染する危険性も考えられる。 その際に、 肝炎ウイルス、 および肝炎という疾患に対して正しい理解のもとに対処することが肝要であり、 今回その治療法についても例を挙げて紹介する。 肝炎ウイルスのイメージ 肝炎ウイルス自体は大変誤解されている側面があり、 一般的に、 肝炎ウイルスというのは非常に怖いものだとイメージされている。 この誤解について、 2つの文例を示す。
1. 「肝炎ウイルスが暴れ出すと肝臓がどんどん壊されてしまい、 程度が強い場合には肝硬変や肝臓癌になってしまう」。
2. 「GPT が上がって異常値を示したときは、 ウイルスにやられて私の肝臓が悪くなっている」
この2つの文章が間違っているとすぐに判断できる方は稀である。 肝炎ウイルス自体が肝臓を壊すことはなく、 このような誤解については十分に検討されなければならない。 それが今後の対策を考える、 あるいはより安心して日常生活を過ごしていくための第一歩であり、 そこが確立しないことには、 その後の方向性が全て間違ってくる危険性がある。
肝炎ウイルスの感染経路と慢性化 肝炎ウイルスでは、 B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスの2つが特に重要である。 まずB型肝炎ウイルスでは、 0〜3歳位で感染した場合にキャリアになる。 出産の際、 母体の産道を通って生まれてくるので、 そのときに血液を介して感染する。 これを垂直感染と言い、 0〜3歳でB型肝炎ウイルスの感染を受ける主要感染経路とされている。 一方、 大人になってB型肝炎ウイルスに感染した場合は必ず体がB型肝炎ウイルスを排除する機構がはたらき、 まずキャリアにはならない。
一方、 C型肝炎ウイルスは何歳になって感染しても、 体内に残る可能性が高く、 体の中にウイルスが残った場合は慢性肝炎という病名になる。 そこがB型肝炎とC型肝炎の根本的な違いである。
臨床的所見と血小板 B型、 C型共に、 慢性肝炎という状態は体内にウイルスが慢性的に残っている状態である。 慢性肝炎が進行すると、 赤血球・白血球・血小板がいずれも下がってくる傾向があり、 特に目立って下がってくるのが血小板である。 慢性肝炎がだんだん肝硬変に向かって進展していくと右肩下がりに血小板の数が減少する。
すなわち、 慢性肝炎の軽い状態、 初期の状態では血小板の数が大体正常値である20万前後の値を示すが、 その後、 中期になると15〜16万。 後期になると12〜13万。 肝硬変では10万以下に減少する (表1)。
従来、 肝機能の良し悪しを判断する指標として GPT が用いられてきた。 しかし、 この GPT という値は肝機能の良し悪しとは全く関係ないと考えた方が妥当である。 これよりもむしろ血小板数の方が信頼できる指標であると言える。 つまり、 GPT がいくら高値であっても血小板の数が20万、 すなわち正常値であれば肝臓はそれほど悪い状態ではない。 血小板の数が10万前後、 あるいは一桁になっていれば肝臓が悪い可能性を示唆するということである。 血小板の数が10万を切ってきた場合、 臨床的には肝硬変を疑うが、 残念ながら、 その大半が将来肝臓癌へと進展することになる。
肝臓病の診断のポイントが何点かある。
一つは黄疸の有無が肝臓病の病態を考える上で極めて重要である。 日本人は黄色人種であり、 見分けるのが困難なケースもあるが、 本当に黄疸があるかどうか迷う場合は目を凝視するのが有効である。 そこが黄色っぽく感じる時は、 肝臓に何か重大な異常が起こっているかもしれないということを疑う必要がある。
その次に手掌紅斑である (図1)。 最初は赤いチョボチョボした点々であるが、 それから手の掌が徐々に赤変する。 この手掌紅斑がみつかると慢性肝炎の予測がつく。 また、 蜘蛛状血管腫 (図2)、 すなわち、 前胸部から肩、 前腕にかけて毛細血管が蜘蛛の巣をはったようなシミが出てくると、 臨床的に肝硬変であるということになる。
肝臓は腹部の右側から中央にかけて位置しており、 左側に脾臓がある。 脾臓と肝臓の間は門脈で繋がっており、 脾臓から肝臓に向かって血液が流れている。 門脈は食物を吸収して肝臓に運ぶ最も重要な血管である。 肝臓が徐々に硬くなり、 肝硬変に進展すると、 肝臓の中で血液が流れにくくなるため、 脾臓が次第に腫れてくる傾向がある。 脾臓が腫れると血球を壊し始めるため、 血小板数が低下する (図3)。 従って、 血小板の数が下がってくるということは、 肝臓の線維化が進んで硬くなってきている。 すなわち肝臓が悪くなっていることを間接的に示唆する訳である。
また、 肝硬変へと進行する際、 右側の方が縮小し、 徐々に左側の肝臓が張り出してくる。 右葉の萎縮、 左葉の拡大と呼ばれる。 腹部の正中部に左の肝臓が張り出してくるので、 腹部の中央で硬い肝臓を触知すれば、 肝硬変だと診断される。 すなわち、 肝硬変の診断におけるポイントとしては、 腹部中央に硬い肝臓が腫れていないか、 脾臓が腫れていないか、 蜘蛛状血管腫がないかなどが判断根拠になる。
これらの理学的所見が揃ってきているということが、 肝臓の悪化の指標であり、 GPT の高低とは明確な相関はない。
肝臓癌について 肝臓癌は年々増えており、 目下の最重要課題である。 本邦における肝癌死亡者数をグラフで示した (図4)。 この図で、 赤で示したものはC型肝炎由来の肝臓癌による死亡者数、 青で示したものはB型肝炎由来の肝臓癌による死亡者数を示している。 B型肝炎でもやはり年々ある一定の割合で肝臓癌を発症しており、 C型肝炎とともに引き続き注意を要する。
肝癌白書から 以上のように、 肝臓癌が急速に増加しているという事実は肝臓学会としても放置できないということから、 学会初の癌白書というのを公表した。 これは毎日新聞・読売新聞・朝日新聞各一般紙、 あるいは NHK をはじめ各報道機関でも取り上げられている。
この肝癌白書で特に強調されたことは、 肝癌が今後10年は増加傾向にあり、 40歳以上の人に肝炎検査が推奨された。 すなわち、 現在では節目検査として、 40歳から5年ごと普通の健康診断にC型肝炎の感染、 あるいはB型肝炎の感染を調べることとなり、 行政も動き出している。
肝癌白書の中は大きく分けて三部構成になっている。 一つは、 日本の肝癌の現状である。 肝癌死亡者数は年間32,000人に及び、 今後10年間は増加傾向にある。 さらに、 肝癌死亡率が、 先進国の中で日本が一番高くなっている。 このような日本の肝癌が取り巻く現状が第一章という形でまとめられている。
第二章では現在の治療法についてまとめられている。 治療法は大きく分けて二つに分かれるが、 一つはインターフェロンを主体とする抗ウイルス療法であり、 もう一つは強力ネオミノファーゲン C、 あるいはウルソ等に代表される GPT を下げる肝庇護療法である。 インターフェロン療法、 あるいは肝庇護療法を行い、 素晴らしい発癌抑制効果が得られるという内容がまとめてある。
ここまで読み進めて違和感を覚える方がいるかもしれない。 というのも、 現在、 こんなに良い治療法、 世界に誇るべき良い成績がたくさん日本にあるというのが第二章の内容である。 それでは第一章で報告されている現状は一体どう説明すべきであろうか。 これほど良い治療法がたくさんあるなら、 第一章で示された先進国の中で最も悪い国だという結果にはならないはずである。 次に、 その原因をどこに求めたかというのが第三章であり、 まとめとして肝炎ウイルスの検査の必要性が強調されている。 私はこの白書に対し、 もう少し謙虚に物事を捉えるべきではないかと考える。 良い治療法がたくさんあると言われているが、 本当にそうなのかどうか、 もう一度考え直す必要があると一言ぐらい断る謙虚さが必要ではないだろうか。
肝炎ウイルスの基本的定義 趣味についても仕事についても言えるが、 結果が悪い時、 上達しない時はまず基本がきちんと出来ているかどうかを疑う。 つまり、 基本に立ち戻って考え直すべきである。 たとえばゴルフでも上手くスコアが伸びないとすれば、 打ち方が我流になりすぎていないかと点検し直すことが必要である。 碁でも将棋でも我流でやって上手くいくというのは余程の天才であり、 普通は基本が確立した上での積み重ねが必要なのである。
肝臓癌を考えた場合、 最も気になるのが何気なく使っている 「肝炎」 という病態が本当に理解されて、 その上で治療法が積み重なっているのかどうかである。 B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス、 何気なく慣用句みたいに、 B型といえばすぐ肝炎、 C型といってもまた肝炎。 何故、 肝炎という言葉がその中に入るのか。 ウイルスの方ばかりに目がいって、 本当にこれが肝炎と考えられているであろうか (表2)。
そもそも肝炎とはいったい何であるか。 この考え方が確立しているかどうか、 肝炎ウイルスのことを正しく理解しているかどうかが問題である。 肝炎ウイルスの一番の基本的な定義は、 結論を先に言うと、 決して肝臓を壊さないウイルスということである。 ここで最初に示した表 (表3) に間違っている所がある事に気がつくかもしれない。 もしこのウイルスが肝臓を壊すとすれば、 肝炎ウイルスと命名してはいけない。 肝障害ウイルスと命名すべきである (表4)。
例えば、 飲酒が原因で肝臓が悪くなる場合、 これはアルコール性肝障害という言葉を使う。 あるいは、 薬が偶然体に合わず、 自分の体を壊すとすれば薬剤性の肝障害。 要するに、 その物質あるいはウイルス等の微生物が原因で肝臓が壊れる場合、 肝障害という言葉を使わなければならない。 一方、 肝炎というのは、 その物質あるいは微生物は全く肝臓を壊さないというのが基本的な定義なのである。 ここで当然、 なぜ肝硬変・肝臓癌の話が出てくるのだという疑問が生じる。 その点については後述する。 今ここで強調するのは、 肝炎ウイルスと名前がついたからには、 肝臓を壊したりするようなウイルスではないということである。
体内は雑菌と共存 健常な人間の体内には、 雑菌が山ほどいる。 例えば、 腸の中には腸内細菌、 胃の中にも細菌ヘリコバクターをはじめとする、 さまざまな微生物が存在する。 B型肝炎やC型肝炎のウイルスもその雑菌の中の一つであり、 同じ位置付けである。 体というのは非常に自分を守る能力に優れており、 その菌を認識し、 この菌が自分の体を壊すと思えば必ずその菌を体が叩き出すという機構がはたらく。 ところが、 B型にしてもC型にしても肝炎ウイルスというのは、 体の方がその残存を許容しているウイルスなのである。 つまり、 腸内細菌とよく似ている。 自分の体には、 全く被害、 悪影響を及ぼさないと判断できるから、 体がそのウイルスを体の中に残しているのである。 肝炎ウイルスのことを非常に怖い物だとイメージするかもしれないが、 体がそのウイルスを体の中に残しても構わないと判断している微生物なので、 あくまで雑菌であり、 決して特殊な生物ではないのである。
では、 何故肝硬変、 肝臓癌になるのかということについて先に結論を言うと、 このB型肝炎やC型肝炎のウイルスは、 少々性格が悪いのである。 見た目には全く、 悪者に見えないウイルスであるが、 性格が悪くて、 裏でこっそり肝臓癌を作ることを企む習性があると考えると理解しやすくなる。 たとえば、 人間にも似たようなものがいるのではないだろうか。 忠誠を誓っているような部下に見えていても、 裏でこっそりいろんな細工を進めていって、 気がついたら会社が転覆したとかいう例である。 表だって何もしないが、 裏でこっそりそういうことを企むという習性を持っている人間、 あるいは微生物があっても不思議はないであろう。 それと一緒なのである。 体にとっては、 おとなしく肝臓の中にいるだけの微生物に見えるのだが、 裏でこっそり肝臓癌を作ることを企んでいる。こういう微生物だと考えると、肝炎が理解できるのである。
GPT という酵素 では肝炎とは何か、 これが問題である。 肝細胞の中にはいろんな酵素があるが、 肝臓の中にしかない酵素が GPT である。 (図5) 肝臓は元々、 非常にエネルギーを必要とする臓器で、 肝細胞のすぐ側を流れる血液から物質の受け渡しを行っている。 港みたいなものである。 何らかの機転が働いて肝細胞が壊れるとする。 すると GPT という酵素が中にとどまれなくなり、 飛び出して外へ出るが、 そこへ血液が流れているので、 血液の中に逆行的にこの酵素が入るのである。 それで血液検査をして GTP が異常値を示す、 例えば、 100ある、 200ある、 300あるということになると、 これは確かにそれだけの肝細胞が壊れたということを示すのである。 これをもって、 GPT が異常値を示した場合に、 肝臓が悪いと言うから誤解が生じる。 肝細胞が壊れてから先のことを言い落としているのである。
肝臓は修理上手 肝臓は再生能力に優れており、 壊れた瞬間に元に戻る。 たとえば、 日曜日に子供が野球をして窓ガラスをいっぱい壊したとする。 用務員の方が窓ガラスを素早く張り替えれば、 月曜日の朝、 学校は全然壊れていない訳である。 それと同じで、 壊れたらすぐ再生していくのである。 GPT が例え100であれ、 200であれ、 300であれ、 肝臓は少しも悪くなっていないという所が意外に見落とされている。
従って、 1年、 2年、 3年と、 GPT が増減しても肝臓はほとんど悪くならない。 ところが、 たとえば手を切った時も少し硬くなって治るように、 肝臓も再生するときに少し繊維化し、 肝臓が硬くなる。 20年、 30年と GPT が動き、 すなわち、 壊しては再生、 壊しては再生を繰り返してしまうと、 段々肝臓が固くなって肝硬変になるのである。 つまり、 GPT 検査を受けて100ある、 200ある、 300ある、 ということになっても別に肝臓が悪いかどうかは判断できない。 ただ、 肝臓が瞬間的に壊れたということが分かるだけである。
ウイルスが肝臓を壊さない 肝炎ウイルスがいるとすれば、 肝細胞の中にいるのである。 このウイルスが山ほどたくさんいても肝臓が壊れるわけではなく、 GPT が上がることもない。 そこが肝炎の最も重要な考え方である。 このウイルスが体の中にいるとする。 すると、 体というのは非常に賢いので、 雑菌でこれは無害だと判断しても、 一応の注意は怠らない。 そして、 先述のウイルスが癌を作ろうと準備を始めたら、 必ず体の方がそれを止めさせるべくウイルスを攻める訳で、 これが肝炎という現象の本質である。
ウイルスを叩く際、 細胞の中に隠れているので直接叩くことは不可能である。 よって、 自分で自分の肝細胞を壊してウイルスを叩くのであり、 その時に GPT が上がる。 つまり、 GPT が上がるのは、 ウイルスにやられて肝臓が悪くなっているのではなく、 その逆である。 体の方がどれだけウイルスを攻撃しているかという数値である。
急性肝炎になると では、 何故急性肝炎で死亡するケースがあるのかということが次の問題である。 急性肝炎の時には肝臓の中にウイルスが集中的に入ってくる。 その時は、 このウイルスが癌を作るとか作らないとかいう以前の問題で、 特にB型肝炎ウイルスの場合は、 大人になって感染した時は、 悪者、 異物として認識し、 排除するのである。 ウイルスが入ってきて増殖した分だけ自分の肝細胞を全部壊して、 ウイルスを叩きにいく訳である。 ここで神戸の大地震を思い出して頂きたい。 あまり一度に肝細胞を壊してしまうと、 再生が間に合わなくなるのである。 これを劇症肝炎と言う。 入ってきたウイルスを一度に排除しようと体の方が反応した場合、 自分で自分の肝細胞をどんどん壊してしまい、 壊しすぎてしまうと再生が間に合わなくなって、 危なくなる。 ウイルスをなんとか体の外に全部追い出してやろうと考えて体が動くから、 やり過ぎとなって体がもたなくなるのである。
再生しているかどうかは、 食事がおいしいかどうかで判断できる。 今、 お腹がすいているなとか、 今日は何が食べたいかなと思っている時は、 肝臓はよく再生しているのである。 GPT が1000でも2000でも大丈夫である。 ところが、 ムカムカして食べられないようであれば、 これは再生が遅れだしているのである。 よって、 急性肝炎の時にはご飯が食べられなくなる訳である。 嘔吐や倦怠感といった症状があれば再生が遅れているのである。
C型は劇症肝炎になりにくい 一方、 C型肝炎の場合はこういう現象は起こりにくい。 B型に比べるとウイルスの量が少なく、 また、 異物だと認識する程度も軽い。 C型の方がB型に比して若干、 癖がないように見えるのである。 すなわち、 たとえ全部排除しようと考えても壊れ得る肝細胞の絶対量が少ないことと、 B型ほど根本的に叩き出そうと体が考えなくても済むということの二つの理由でC型では劇症肝炎が起こりにくい。
正しく理解すること 肝炎の治療は基本に忠実に行えば助かることが多いが、 肝炎なのか肝障害なのか、 よく分かっていない者が治療すれば、 全く逆を行う危険がある。
一つ明るい話題として、 ラミブジンという新薬を紹介する。 B型肝炎においてウイルスを止めてしまう薬である。 B型のウイルスを狙って体が激しい戦争をし過ぎた場合に、 ウイルスを止めることができるので、 体の方から見ると、 ウイルスがいないのと同じ状態に判断されるという仕組みである。
ウイルスが止まり、 いないものとして判断すると、 自分の肝臓を壊そうという気がなくなる。 つまり根本的に肝炎を止める薬である。 これにより、 今後、 B型肝炎の劇症化というのはほとんど起こらないだろうと思われる。
肝臓を戦場にしないために C型肝炎のウイルスが見つかって10年余り。 毎日肝炎について考えているうちに得た、 最終結論を示す。 (図6) 再三述べる通り、 肝炎ウイルスは、 肝臓を壊したりするような怖いウイルスではない。 肝臓に住み着くことを至適生活条件とする雑菌である。 ただ性格が少し悪く、 裏でこっそり長年かかってではあるが、 癌を作ることを企んで、 実際作ってくるものである。
しかし、 癌といえども、 ある時突然作る訳にはいかない。 綿密な準備が一つずつ進んでいって、 全部の準備が完了すると、 事が起こり出すのである。 戦争でも同様である。 武器を集めたり、 仲間を集めたり、 相手の事を調べたり、 あるいは情報システムを作ったりして、 最後に最高決定機関が全ての情報をまとめて、 これならやろうと言えば、 初めて戦争が起こる訳である。 起こった時点で振り返って、 始めに武器を集めていたのは、 そういう事だったのかと理解する訳である。 それは、 戦争の為の一つの大事な段階かもしれないが、 武器を集めているだけ、 あるいは人を集めているだけでは戦争は起こらない。 癌も多分同様なのである。 この一つひとつの準備を全部完了させてしまうと、 体の中に癌が出来るのである。
ウイルスがどこかのボタンを押しに来ていると判断したら、 体の方が必ずそれを止めさせる方向に働く。 これが GPT である。 つまり GPT は癌が作られるのを防御し、 自分の体を守ってくれる大事な数値といえる。 肝臓が悪くなっていると勘違いして、 単に GPT を下げることばかり考えていると、 ウイルスの目論見通りになってしまう可能性がある。 しかし、 結局全部のボタンを押されてしまうと、 一個の肝臓癌が体の中に出来るのである。
これはよく誤解される点であるが、 一つの癌細胞が体の中に出来てから、 超音波や CT に代表される画像診断装置によって検出可能な大きさまで成長するのに、 10年位かかるのである。 そして、 見つかるくらいの大きさに成長して以降は割と早く進行するのである。
胃がんの場合は、 大体15年だと言われている。 一つの癌細胞が胃の粘膜にできても、 普通は洗い流している。 ところが、 不幸にしてそこの粘膜に留まってしまうと粘膜下に潜りだして、 再び表面に顔を出して、 早期胃癌として認められる。 それまでに15年かかるのである。 癌というのは異物ではなく、 元々自分の正常な細胞が、 何らかの環境、 あるいは刺激を受けて、 性格が段々変わってきたものと考えることができる。 元々自分の細胞なので、 癌が小さいうちは気がつかない訳である。 肝臓癌も全く一緒で、 全部のボタンが押されて癌が一つ出来ても全く気づかない。 10年位経ってこの癌が写ってくる頃が、 だいたい臨床的に血小板数が10万前後になる頃で、 肝硬変を疑う時期なのである。
癌はいつ出来たか 一般的に、 慢性肝炎・肝硬変・肝臓癌というプロセスがあると言われている。 従って肝硬変がなければ肝臓癌が出来ないと思っている人も多い。 肝硬変を疑う頃に癌が見つかってくる。 この癌はいつ発癌したかといえば、 肝硬変だと思う10年前に発癌しているのである。 それは誰が見ても慢性肝炎の時期である。 この肝炎ウイルスは確かに肝臓癌を企んで作って来るのであるが、 慢性肝炎や肝硬変は別にウイルスが作る訳ではないのである。 ウイルスは肝臓を壊さないので、 慢性肝炎や肝硬変を作るはずがないのである。 強いて言うならば自分自身が作っていると言える。 すなわち、 慢性肝炎というのは、 何とか癌になるまいとして、 肝臓を戦う場にして体とウイルスが戦っている過程のことである。
そして、 戦っても戦ってもウイルスの企みを体が止めさせられなかったら、 20年も30年も戦い続けざるを得ないのである。 すると、 さすがに肝臓が段々荒れ果てていって肝硬変になるのである。 こう考えると、 如何にすれば肝硬変や肝臓癌を防ぐことができるか、 もう大体結論が見えてくる。 このウイルスは別に肝臓を壊したりしないので、 体の中にいくら存在しても問題ない。 このウイルスが癌を作る気さえ無くしてくれればそれでいいのである。 すなわち、 このウイルスが癌を作る気が無くなれば、 癌はもちろんできない訳である。 性格が少し悪いことだけが問題で、 そこが治りさえすれば、 体は自分の肝臓を犠牲にしてまでウイルスを攻める必要がなくなり、 肝臓が荒れ果てることはないのである。 肝硬変にもならない。 人間でも同様である。 こっぴどく怒られたらしばらく悪いことはできないであろう。 怒るときはきちんと怒ることが重要である。 体の方が一生懸命ウイルスを攻めにいっても、 うまくウイルスがいうことを聞いていないと判断されたら、 しっかりと叱りつけることが必要である。
インターフェロンが使えるか 体の方の戦い方がよくない場合はどこかでインターフェロンを考えるべきである。
今インターフェロンが副作用で問題視されているのは、 全滅させようと考えているからである。 もちろん全滅が最善であるが、 必ずしも全滅しなくてもいいというのが肝炎ウイルスの攻略しやすい点である。 腸内細菌を根絶する必要はないのと同様、 ずっと一緒に持っていればいいのである。 すなわち、 性格だけ生意気になったら叩いてやれば良い。
今後の治療法は 肝炎は微生物がいて、 病態がある。 従って、 これは感染症であって、 決して生活習慣病ではないということをよく考え直す必要がある (表5)。
今、 肝臓病で頻繁に行われている治療法は、 食後の安静に留意し、 脂肪分は控え、 良質のタンパクを摂取し、 ストレスは減らし、 大好きなお酒を止め、 毎日注射を打って、 飲み薬を飲んで、 あとその他もろもろである。 これが肝臓病で悩んでいる多くの方が今、 一生懸命取り組んでおられることであるが、 これが微生物をどれだけ攻めているのかという目で見直してみると、 全く攻めていないのである。 昔の結核を思い出す必要がある。 昭和20年代まで結核が死因の第1位である。 若い人でもバタバタ倒れた時代がある。 その時に美味しい空気を吸って、 美味しい食物を食べてと、 生活習慣をいくら強化しても死因の第1位は全く揺るがなかったのである。 ご存知の通り、 ストレプトマイシンから始まって直接結核菌を叩く方法が見つかって、 初めて結核があまり怖い病気でなくなったという感染症の治療のあり方を考える上で非常に大事な歴史的な教訓がある。
感染症ということにおいてはC型肝炎、 B型肝炎も全く同様なのである。 先進国の中でもワースト1の悪況において、 皆が肝硬変、 肝臓癌になることを恐れている状態である。 結核の時に直接微生物を叩くことしか実質的な治療ではないと評価できたのに、 なぜ肝炎の時にはいろんな民間療法みたいなことが流行るのか。 先述の7〜8項目は全く感染症の治療にはなっていない。 だから一生懸命通院して点滴を打とうが、 飲み薬を飲もうが、 食事療法をしようが、 お酒を一生懸命止めても駄目な時は駄目なのである。 普通は微生物がいても肝炎のウイルスを持っていても半分ぐらいの人は一生健康に過ごしている。 自分の免疫能、 自分の力でウイルスを止められる人がたくさんいるのである。 これは検診で調べることができる。 長年、 間違いなく肝炎ウイルスを持っているなと思う人でも、 肝臓が悪くなっていない人が半分くらいいる。 B型肝炎の場合は90%はそうなのである。 従って、 C型肝炎でも別に特殊な治療をしなくても自分の免疫能だけで一生健康に過ごせる人はいるのである。 ただ一方で、 自分の力だけではどうしても、 うまくウイルスを止められない人が半分ぐらいいる。 それは血小板の数が下がってくるグループで、 このグループでは、 攻めても攻めてもウイルスがいうことをきかないため、 肝臓が固くなるまで体がウイルスを攻め続けざるを得ないのである。 そうなった場合は戦い方があまり良くないということがわかる。 その時は何か治療の上積みを考えるべきなのである。
治療と試験問題の配点 ウイルス性肝炎の方と主治医が一緒になって、 表に示す試験問題を解いているのだと考えてみよう (表6)。 テストであるから100点のうち60点取らないと失格である。 テーマによって出る問題は大体決まっている。 同じように均等に問題が出る訳ではないのである。 ウイルス性肝炎は感染症であり、 この問題しか出ていないはずである。 すなわち、 「的確にウイルスを攻めなさい。」 これが一番目の問題に決まっているのである。 しかも配点はここに90点ある。 日常生活の工夫、 即ち安静、 アルコール、 食事療法や毎日注射しに行ったり飲み薬を飲んだりすることは、 残りの10点ぐらいに過ぎない。 特殊な病院に行かなくても、 自分の体の免疫能だけでウイルスを観察し、 封じ込められている人が多くいるのである。 長くウイルスを持っているのに元気な方が検診でよく見受けられるが、 それはうまく自分で処理できているのである。 免疫能だけで60点とってしまう人が過半数いるのである。 そして、 これらの方では血小板数は20万前後と正常に保たれている。
合格点に達しないと ところが血小板数が下がる場合は、 この免疫能だけでは30点ぐらいしか取れないグループである。 合格する為には、 あと30点取らなければならない。 先述の通り、 食事や安静に気をつけて、 脂肪分を控えて、 バランスのいい食事をして、 ストレスを減らして大好きなお酒も止めて、 毎日注射しに行って飲み薬を飲んでも10点しか増えない。 ダメな時はダメなのである。 その時は、 感染症対策の基本として、 的確にウイルスを攻めることを自分の体の許す範囲内で考えれば、 それだけでも戦い方が変わるのである。
判定勝ちすればいい たとえば、 ボクシングの試合だと思えば良い。 ウイルスの方は癌を作ろうと企む、 体はそれを止めさせようとする、 それが肝炎である。 この戦いが一生続いているのである。 このボクシングの試合にトータルで負けてしまうと癌になると考えれば良い。 免疫能で30点しかとれない人というのは、 ボクシングの試合の後半戦に入ってもなお、 かなり判定で負けている人である。 このまま戦っていれば間違いなく負けてしまう。
インターフェロンというのは、 この治療をすればウイルスがゼロにならなくても相手は壊滅状態に入るという薬剤である。 つまり相手がダウンする。 今まで戦い方がうまくいかず、 このままだと判定負けになりそうな状態を想定して頂きたい。 その時にたまたま、 ラッキーパンチが当たって相手がダウンしたとする。 たとえその時、 相手をノックアウト出来なくても、 10カウント取れなくても、 その後の戦い方ははるかに良くなるはずである。 それと同様なのである。
インターフェロンを一回使うと必ずウイルスが一回ダウンする。 その後、 体からのパンチが面白いように当たりだす可能性があって、 最終的に判定勝ちぐらいに持ち込めるかもしれないということである。
肝臓の善し悪しと GPT 肝臓が良い悪いということと、 GPT が高い低いということが混同して理解されている訳である。 (図7) 人間の肝臓は生まれた時に3分の2を切り取っても元気に生きていけるぐらい再生能力がある。 つまり、 慢性肝炎の時には多少、 正常よりも機能が落ちるかもしれないが、 充分機能している状態であると言える。
肝硬変は、 代償性と非代償性とに分かれており、 たとえ肝硬変でも半ばまでは正常なのである。 本来、 肝臓の良し悪しを GPT の高さ低さでもって決めることはできないが、 GPT が高いと肝臓が悪いと考えがちで、 そこに大きな間違いがある。 生まれたときから既に余裕のない非代償性であれば、 GPT が動くということがすなわち、 肝臓が悪い事と直結する。 しかし、 元々余裕があり、 また肝臓は再生しているので、 GPT が少々動いても肝臓が悪くなっているとは限らない。 従って、 肝臓が悪いかどうかというのは、 血小板の数を見て、 自分の体がウイルスとうまく戦ってくれているのかどうかを見れば大体推定できる訳である。 戦い方が悪かったら、 一、 二回でもいいから攻めることを考えるべきだというのが結論である。
インターフェロンの量を工夫 インターフェロンは具体的に様々な投与法があり、 今の所、 最善の方法については結論が出ていない。 肝炎自体の理解がまだこのようにおぼつかない状態であるから、 インターフェロンの方もまだ発展途上である。 しかし、 投与量や投与法を工夫すれば充分に体に悪影響をおよぼさずに治療を行うことが可能である。 副作用が発生すれば、 その時点で検討すれば良いのである。 決して食い下がらず、 とりあえず二、 三発でもウイルスを殴ったら良いのだというくらいの気持ちの余裕があれば良い。 ウイルスを消さないと治療が無駄であったとか、 無効であったと判断するのは早計である。 インターフェロンは100%効くのであり、 効かない効かないと言うから話が混乱する。 何をもって効くかと言えば、 ウイルスが一時でも癌を作る気がなくなるのである。 その観点で言えば100%効くのである。
ただ人間と同様で、 一旦その気がなくなっても再び同じ事を考え出す可能性はある。 その時はまた攻めれば良い。 今までウイルスが10年、 20年かかって準備してきたところを一回キャンセルできるという点が重要なのである。
−IFN-β、 PegIFN 併用療法−
ここで、 効果的かつ体に優しい IFN 療法の一例を紹介する。 IFN 療法を成功させる大きな要因として、 早期にウイルスを陰性化させること、 および抗ウイルス効果を維持させることの2点が挙げられる。 前者に対しては IFN-βが有効であり、 後者に対しては PegIFN が期待できる。 そこで、 IFN-β導入/PegIFN 併用療法という治療法を検討した。
24例のC型慢性肝炎患者に対し、 本治療を行った。 患者背景は genotype1b が21例、 2a が2例、 判定不能が1例であり、 ウイルス量は全例100 KIU/mL 以上であった。 治療法については IFN-β (フエロン〇R:東レ梶j, 3 MIU を1日2回、 連日で2週間投与した。 続いて IFN-β, 1 MIU を1日3回、 連日で2週間投与した。 その後、 PegIFN (ペガシス〇R:中外製薬梶j, 90g を週1回で12週間投与した。 HCV-RNA 量はアンプリコア定量法により測定し、 検出限界未満を以て陰性とみなした。
対象症例24例中、 IFN-β2回法2週投与終了時、 陰性化したのは15例 (62.5%) であった。 また、 IFN-β3回法2週投与終了時は17例 (70.8%) が陰性化していた。 その後、 PegIFN に切り替え、 12週投与終了時には16例 (66.7%) が陰性を持続した (図8)。
副作用の発現については、 全体として重篤なものはなく、 発現の頻度も少なく、 安全性に優れた治療法であることを裏付ける結果であった。 IFN 治療において頻繁に見られる発熱についてもロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン〇R:三共梶jの内服により6割以上の症例で全く発現しなかった。 発熱があらわれた症例でも、 ほとんどが軽微なものであった。 食思不振が約2〜3割に見られているが、 PegIFN 切り替え後に若干緩和している。 抑うつに関しては IFN-β治療中にはほとんど見られず、 認められても軽微なものであったが、 PegIFN 切り替え後に、 全身倦怠感を伴い発生するケースがあるので注意深く観察する必要がある (図9)。
ここで、 症例を2例提示する。
[症例1] (図10、 11)
I.H. 52歳, 男性 genotype 1b, HCV-RNA 850 KIU/mL 以上
IFN-β3MIU, 2回法を2週間投与終了時点で HCV-RNA は陰性化した。 PegIFN 投与終了後10週を経過しても陰性を持続しているので、 このまま著効に至る可能性が高い。 また、 投与開始直後より、 GPT 値は速やかに降下し正常化に至り、 投与終了後10週経過時点で正常値を持続している。 2週終了時で 2-5AS 値が顕著に上昇したが、 PegIFN に切り替え後、 徐々に降下した。 また、 血小板が急激に減少したが、 PegIFN 切り替え後、 速やかに回復した。 PegIFN 投与中に再び減少したが、 投与終了後、 直ちに回復した。 白血球、 Hb 値については正常範囲の変動であった。 予定していた16週の治療を完遂した。
[症例2] (図12、 13)
T.T. 72歳, 女性 genotype 1b, HCV-RNA 850 KIU/mL 以上
IFN-β3MIU, 2回法を2週間投与終了時点で HCV-RNA は陰性化し、 PegIFN 投与終了後4週を経過しても陰性を持続している。 また、 GPT 値は投与開始直後より速やかに降下し、 投与終了後4週の時点で正常値であった。 2-5AS 値は上昇し、 IFN-β投与終了時 (4週目) をピークに、 PegIFN 切り替え後、 降下している。 投与開始直後より、 白血球および血小板数が減少したが、 血小板数は PegIFN 切り替え後、 次第に回復し、 白血球数は PegIFN 投与終了後、 速やかに投与前値まで戻った。 Hb 値も常時安定していた。 70歳以上と高齢であったが副作用もみられず予定していた16週の治療を完遂した。
PegIFNα2a の48週投与という長期にわたる治療でも、 HCV-RNA 500 KIU/mL 以上の症例における著効率は55例中1例 (1.8%) 3) と、 ほとんど著効が得られていない。 先ほど紹介した2つの症例はいずれも genotype 1b かつ HCV-RNA 850KIU/mL 以上であるが、 投与終了後4週あるいは10週時点で HCV-RNA 陰性を持続しており、 ウイルス学的著効が期待できる。 初期に IFN-β分割投与の導入を行ったことで治療効果を高める可能性が示唆された。
Genotype 1b かつ HCV-RNA 100KIU/mL 以上のC型慢性肝炎患者は難治性であり、 著効率は IFN 単独治療で約10%、 リバビリン併用治療で約20%と言われている。 また、 治療開始4〜12週目までに陰性化しない症例は最終的にほとんど著効が得られないことが知られている 4,5)。 本投与法は投与初期の陰性化率も高く、 それが投与終了時まで持続できている。 また、 通常24〜48週間の治療期間を16週間と短縮しているので、 効果的で体に優しい、 今後期待される投与法である。
<引用文献>1) Komiyama K.,et al.:Lancet, 338, 572 (1991)
2) 長尾 由実子 他:感染症学雑誌, 74(11), 961 (2000)
3) 堺 隆弘 他:医学と薬学, 50(5), 655 (2003)
4) 豊田 成司 他:臨床医薬, 18(4), 539 (2002)
5) 飯野 四郎 他:臨床医薬, 18(4), 565 (2002)
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