成り立ち 病理学的成因

神奈川歯科大学歯学部顎顔面診断科学講座   
病理学部門 槻木 恵一 

 近年、 成人性歯周炎における組織破壊の進展は急性期に生じると考えられるようになっている。 このいわゆる P 急発の病理像は、 慢性炎症をベースとして急性転化した病変であることから、 基本的には急性化膿性炎の病理学的所見を示す。 この慢性炎症の状態から急性転化するときのエピソードとして、 本シンポジウムにおいて病理学的な所見を2つ指摘した。 
 上皮組織の役割は、 外界からの病原因子の遮断でありバリアーとして働いている。 ヒト歯周組織にみられる炎症の程度は、 内縁上皮の厚みに依存しており、 その厚みが薄くなるほど上皮直下の炎症は高度となる。 すなわち、 細菌性の因子等によって上皮組織がダメージを受けることが、 P急発の第一歩となる。 しかし、 宿主側も生体の防御機転として、 上皮組織の反応性の増殖による厚みの確保を図るといった現象が生じている。 次に、 上皮組織のダメージは結合組織の露出を招く。 それによって、 炎症の程度はさらに強くなり、 上皮下結合組織の破壊が進展する。 この結合組織の破壊はP急発を招く次の重要な病理学的所見である。 特に、 細菌の侵入しやすい状況が形成されており、 化膿を誘発する細菌群が大量に侵入すれば、 急性化膿性炎が誘発される条件が整う。 さらに疾患の発症には、 生体の防御因子としての免疫能とのバランスが関与するのは言うまでもない。 
 歯周疾患における炎症の程度の検索方法として、 プローヴィングは簡便で確立した診査法である。 しかし、 病変部の組織変化を反映するものではなく、 疾患活動度との関連も不明なのが実情である。 近年、 組織穿刺法が歯周組織の炎症状態の診査に有用であることが報告された。 本シンポジウムでは、 組織穿刺法より簡便なポケット内細胞診法を紹介した。 ポケット内細胞診法はプローヴィング時、 探針の先に付着した細胞をスライドガラスに付着させ、 顕微鏡で観察しポケット内の状態を検査するものである。 基本的にはメインテナンス時に応用し、 P急発などの病態の把握に利用できないかと考え、 現在検討している病理検査法である。 図1Aは、 歯周処置後で臨床的に治癒を認める症例のHE染色像である。 組織学的には内縁上皮は一層あるのみであり極めて薄い (←)。 上皮下には軽度の炎症細胞浸潤を示し、 血管拡張などの所見を認めない。 また、 結合組織は線維化が認められる。 このようなポケットを細胞診において診査すると、 図1Bに示す細胞像と一致すると思われる。 図1Bは単離した上皮細胞 (←) と線維芽細胞 (↓↓) がわずかに観察され、 軽度の炎症細胞浸潤を認める。 少数の単離した上皮細胞と線維芽細胞が観察されるのは上皮組織が薄いからである。 通常、 上皮組織が厚ければ線維芽細胞は認められない。 このようなポケットは、 臨床的には治癒していても上皮が薄いため炎症が再燃しやすいことが考えられ、 P急発を注意すべき状態であることが示唆される。 
 保険点数も認められている細胞診を歯周病の検査に実用化することは、 口腔病理診断学にとって極めて意義深いことであり、 さらに今後症例を重ね検討していく予定である。