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はじめに
保険医が臨床使用できる薬剤は、 原則として厚労省が疾患あるいは症状から適応としたものに限られている。 抗菌薬の開発は、 毒性試験、 薬物動態、 薬効試験、 臨床試験と多くのエビデンスを積み重ねて、 はじめて保険適応になるものであり、 適応薬は尊重されなければならない。
新規抗菌薬の上市が期待できない状況において、 耐性菌の出現を防止するために、 既存の抗菌薬をいかに適正使用するかが重要な命題となっている。
この観点から抗菌薬投与計画を以下のように考慮する必要がある。
1) 感染症患者を速やかに治癒させる(個人防衛的な観点)。
2) 耐性菌を増やさない(集団防衛的な観点)。
3) 医療資源の浪費を最小限にする(医療経済的な観点)。
抗菌薬の使用には、 個人防衛を最重要視しながら、 集団防衛、 社会防衛をバランスよく組み合わせた薬剤選択と投与法が求められる1)。
経口抗菌薬の選択
軽症・中等症歯性感染症の治療薬として、 私の行っている経口抗菌薬の選択を表1に示す。
1) 歯性感染症では初期には口腔レンサ球菌が主因菌として症状を増悪させると考えられるので、 それに強い抗菌力を示すアンピシリン、 エステル型セフェムあるいはマクロライドが第一選択される。
2) 第一選択薬を使用しても症状の改善がみられない、 あるいは炎症症状が強い場合には、 耐性菌による感染やβラクタマーゼを産生する嫌気性グラム陰性菌が介在する感染が疑えるので、 ファロペネムあるいはフルオロキノロン系薬に切り替える。 ファロペネムはβラクタマーゼに安定で口腔レンサ球菌や嫌気性グラム陰性桿菌に強い抗菌力を有しており、 フルオロキノロン系薬は現在のところ歯性感染症からの検出菌に耐性を持たないことが理由として挙げられる。
ただし、 可及的速やかに起炎菌を分離同定して薬剤感受性を行うことが原則であることは言うまでもない。
注射用抗菌薬の選択
歯科疾患に適応のある注射薬は経口薬に比べかなり制約されているものの、 通常は適応薬で十分臨床効果が期待できる。
中等症以上の歯性感染症に対する治療薬として私の選択する注射用抗菌薬を表2に示す。
1) 感染初期には起炎菌として口腔レンサ球菌やペプトストレプトコッカスなどのグラム陽性菌が主因を占めると考えるのでアンピシリンあるいは第一世代セフェム薬のセファゾリンが第一選択薬となる。
2) セフトリアキソンは血中に高い濃度が持続するので1日1回の投与で臨床効果を期待できる。 そのため入院設備を持たない歯科医院でも中等症以上の感染症に対し通院による抗菌薬療法が可能となる。
3) 歯性感染症では顎骨周囲の組織隙に感染が波及すると嫌気環境になるため急激な嫌気性菌感染症になりやすい。 したがって、 βラクタマーゼ産生菌など嫌気性菌のプレボテラ、 ポルフィロモナスの菌量の増加が考えられる場合はセフメタゾールが効果的である。
4) 重症感染症にはカルバペネム系薬を選択する。 カルバペネム系薬は、 MRSA を除く多くの病原細菌に優れた抗菌作用を有している。 しかし、 血中半減期が1時間程度と短いので、 1日3回の使用が必要である。 また、 この優れた薬剤を頻用することにより耐性菌の増加を招かないためにも、 本剤の使用は症例を限定して行うべきである。
術後感染予防投与
私の選択する抜歯後感染予防薬を表3に示す。
1) 通常の抜歯は経口薬による感染予防が可能である。
2) 汚染創の抜歯あるいは感染抵抗能が低下した患者 (糖尿病、肝硬変、副腎皮質ステロイド薬使用患者、 好中球減少症)では殺菌作用の強い経口薬あるいは注射薬を必要とする。
3) 感染予防薬が無効の場合も治療薬がある。
4) 感染予防薬は抜歯30〜60分前に、 常用量〜倍量を服用する。
5) 投与期間は通常の抜歯なら2日間、 汚染創の抜歯では3日間とし、 4日目に感染を確認した時点で治療薬に切り替える。
文献
1) 稲松孝思:抗菌薬使用の手引き:第1版、 協和企画、 東京、 2001年、 3−6頁
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