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1. 歯性感染症について
歯性感染症は主に嫌気性菌による複数菌感染症である1、4、5)ため抗菌薬療法と外科的治療の二つが不可欠となる2、3)。 嫌気性菌の分離、 同定、 薬剤感受性試験の結果が判明するまでにはかなりの日数を要するので、 抗菌薬療法は empiric therapy を行うことになる2、3)。 1992年1月〜2003年6月までの12年6ヶ月間に、 山口県立中央病院歯科口腔外科で経験した閉鎖性膿瘍261検体から合計1437株の細菌が分離された。 好気性菌は僅かに204株(14.2%)で、 嫌気性菌が1233株(85.8%)を占めていた。 すべて穿刺吸引法で検体を採取した。
一検体あたりの分離株数は5.5株。 注目すべきは嫌気性グラム陰性桿菌が総分離株の過半数(50.4%)を占めている点と、 嫌気性グラム陽性桿菌の分離率も約19%と高い点であった。 分離頻度の高い細菌は、 嫌気性グラム陰性桿菌724株の内、 Prevotella属が380株(26.4%)と過半数を占めていた。その内訳はPrevotella
intermedia127株(8.5%) Prevotella spp.135株(9.4%)などであった。その他Fusobacterium nucleatum 142株(9.9%)、
Peptostreptococcus micros 165株 (11.5%)、 Eubacterium属138株(9.6%)、
Streptococcus milleri group 123株 (8.6%) であった。
2. 歯性感染症で分離される細菌のパターン
歯性感染症で分離される細菌は2つのパターンに集約される4、5)。 すなわち嫌気性菌と微好気性菌である
S.milleri group との複数菌感染 (約47%) と嫌気性菌のみの複数菌感染 (約41%) である。
3. 耐性化傾向のある細菌
耐性化傾向のある細菌としては、 従来からβ-lactamase を産生する
Prevotella 属や Wolinella 属などの嫌気性グラム陰性桿菌と、β-lactamase非産生であるが複数のβ-lactam薬に対し耐性を示すCampylobacter gracilis、Dialister pneumosintes、
Wolinella 属、 Prevotella 属などの嫌気性グラム陰性桿菌が注目されてきたが4)、
S. milleri group にも耐性化が認められ、 注意が必要である。
2000年5月から2003年6月までに当科で経験した閉鎖性膿瘍92検体から分離された604株についてニトロセフィン法にてβ-lactamase 産生能の検査を行い、
P.intermedia の22.6%(12/53株)、P.buccaeの21.1%(4/19株)、P.melaninogenica group の21.7% (5/23株)、
Prevotella spp.の25.0% (17/68株)、 Prevotella 属全体の約23% (38/168株) が、
Wolinella属の約10%(1/10株)がβ-lactamase 産生株であった。 一方、
Fusobacterium nucleatum、Porphyromonas gingivalisにはβ-lactamase産生株は認めなかった。また一検体あたりのβ-lactamase 産生株の感染率は約30%(28/92検体)であった。
S.milleri group は、PCG、CDTR、IPM、LVFXに対してほぼ全ての株が感性であったが、 CTM に対して約80%の株が耐性を示した。 EM、 CLDM の MIC50は0.13μg/ml、MIC90は>4μg/ml と二蜂性の感受性分布を示し、 耐性率はそれぞれ30.6%、22.4%であった。
Peptostreptococcus micros、 P. anaerobius、 Eubacterium 属には耐性株は殆ど認めなかった。
4. 抗菌薬の選択
抗菌薬の選択に当たって考慮すべき細菌は、 高頻度に分離される嫌気性グラム陰性桿菌1、4、5)で、 その過半数を占めた
Prevotella 属の約23%がβ-lactamase 産生株であったことから、 経口薬、 注射薬共にβ-lactamase の影響を受けない clindamycin やβ-lactamase 阻害薬を配合したβ-lactam 薬、 cephamycin 系薬を第一選択と考えている。 中でも静菌作用ではあるが組織移行が良好で嫌気性菌全般に対し抗菌力を有する clindamycin を第一選択薬としている。 尚、 約20%の株が CLDM に対し耐性を示した
S.milleri group は、 他の嫌気性菌と相乗的に病原性を発揮する事を考慮する必要がある。
5. 重症度による抗菌薬療法
当科では重症度に従って抗菌薬療法の方針を決めている。 軽症例には経口薬のみで clindamycin や cephem 系薬、 macrolide 系薬を、 中等症すなわち CRP10mg/dl 以下の顎炎には clindamycin や cephem 系薬による一日一回の点滴静注を数日間と経口薬の併用療法を行い、 軽快すれば経口薬のみとしている。 CRP10mg/dl 以上の重症な顎炎、 顎骨周囲の蜂巣炎には clindamycin や cephamycin 系薬、 β-lactamase 阻害薬配合薬による単剤療法を、 CRP20mg/dl 以上の場合には clindamycin+carbapenem 系薬の併用療法を行っている。
最も適切な抗菌薬療法が求められるのは重症度の高い場合である。 すなわち感染症自体が重症の場合と、 感染症は比較的軽症でも糖尿病のコントロール不良、 ステロイドホルモン剤の長期間服用による宿主の感染防御能の低下などの基礎疾患が存在する場合は重症とみなし対処する。 歯性感染症では重症度による病原菌の種類に差はないので、 抗菌薬併用の目的は、 嫌気性菌に対するスペクトラムの拡大ではなく抗菌力の増強である。 たとえ MRSA や腸内細菌が嫌気性菌と複数菌感染症を引き起こしても。 さらに、 β-lactam 薬の投与方法についても、 その時間依存性を考慮すると、 倍量投与よりも頻回投与の方が有効性が高いと考えられる。 抗菌薬療法では、 初期治療が重要で、 殺菌作用のある carbapenem 系薬を短期間大量投与し、 急性期が過ぎれば clindamycin による単剤療法へ変更し、 炎症反応陰性化を確認して抗菌薬療法を終了している。
6. まとめ
1) 嫌気性グラム陰性桿菌のβ-lactamase 産生能の検査は保険適応ではないが、 β-lactamase 産生能を知ることにより抗菌薬の適正使用が可能となる。 2) β-lactamase 産生株が複数感染している場合があるので、 重症度とβ-lactamase 産生株の割合との関連も重要である。 3) 今後は嫌気性グラム陰性桿菌と
S.milleri group の耐性化の動向に注目する必要がある。
文献
1) 金川昭啓 他:膿瘍を形成した歯性感染症の細菌学的検討 日口外誌 44:133-139 1998.
2) 中村 功:嫌気性菌感染症の最近の知見 感染症 29:1-10 1999.
3) Finegold, S. M. : Anaerobic Infections in Humans: An Overview. Anaerobe 1:3-9 1995.
4) 金川昭啓:3. 病院歯科における口腔感染症治療 JOID 9:31-33 2002.
5) 金川昭啓:抗菌薬のターゲットになる細菌は何ですか? 歯界展望別冊/Q&A 歯科のくすりがわかる本2003. 坂本春生、 一戸達也、 中川種昭編. 医歯薬出版、 東京、 2003、 46-47.
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