は じ め に

 「スタンダード・プリコーションに思う」 

日本口腔感染症学会 副理事長

中 尾   薫

 鳥インフルエンザのニュースで溢れる今日この頃。 テレビでは、 鶏の処分にあたり、 物々しい防護服に身を包んだ県職員と、 普段着の鶏舎職員が際立った形で放映されている。 この映像を見て、 違和感を感じられる諸兄もおられるだろう。 伝播微生物の拡散を最小限に押さえ込む目的で、 鶏舎は隔離され、 周辺道路も封鎖。 ここで、 思いもかけぬ拡がりは空中から来た。 渡り鳥や地域のカラスなどの鳥が媒介している可能性が云々されている。 物流、 等から平面的な伝播を考えられがちだが、 鳥が媒体だとすると、 立体的な伝播様式まで対応せねばならない。 ウイルスは空港から空港へと全世界を駆け巡り瞬時に世界中が汚染される事実は想像に難くないが、 渡り鳥が媒体だとすると、 もうお手上げに近い。 病原性の強弱で判断すると、 鳥インフルエンザはまだしも、 エボラを初めとした新興感染症への対処がいかに脆弱であるかと背筋が凍りつく。 
 この紙面が発刊される頃には、 鳥インフルエンザは忘れられているかもしれない。 しかし、 我々の学会が創設されて12年の間に、 感染症の話題は尽きるどころか、 むしろ増えている。 今後、 来るべき遠い歴史の中で、 微生物との共生問題も重要であるが、 当面、 現代を生きる我々の生活環境・物流問題・医療に於ける院内感染・社会的微生物汚染、 これらの課題を総じて問題提起し、 人のこれからの生き方・在り方までをも論じなければならない。 
 スタンダード・プリコーションの概念は、 我々医療人だけではなく、 最早、 広く一般国民の内でも認知されるべき課題なのかもしれない。 危急の折、 タマゴを素手で割ってオムレツを作り、 素手でパンを食することもままならない社会の方がおかしいのか、 スダンダード・プリコーションを徹底すべきだと議論を持ちかけるのが正しいのか、 いよいよ変な世の中になってきたように思う。 
 ちなみに、 釈迦に説法であるが、 「スタンダードプリコーション」 とは標準感染予防策のことで, 1996年, 米国 CDC が出した概念である。 重要なことは 「感染症の患者さんとそうでない患者さんを区別せず」 「患者さん由来の体液はすべて感染性があるものとして取り扱う」 という基本概念。 つまり血液由来感染症の患者の多くは事前には分かっていない, ということで生まれてきた考え方である。 加えて、 SARS はじめ飛沫感染にも配慮した、 より厳しい医療環境の整備・提供が、 我々の緊急課題であろう。