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東海大学医学部外科学系口腔外科
金 子 明 寛
はじめに
1980年代から、 口腔レンサ球菌の耐性化が認められ、 口腔レンサ球菌の耐性化の増加とともに、 ペニシリン耐性肺炎球菌も分離頻度が高くなっている。 2000年に東海大学で集計した歯性感染症起炎菌株に対する薬剤感受性の結果でも耐性菌の占める割合が増加していた。 なかでも Prevotella 属で高く、 臨床への影響が危惧されるものであった (表1、 2)。 すなわち、 β-ラクタマーゼ産生菌の増加により日常臨床で使用される頻度が高いβ-ラクタム剤 (ペニシリン、 セフェム) の治療効果が減弱することが予想された。 今回、 本邦での使用頻度が最も高いセフカペンの臨床効果を多施設で検討する機会が得られたので概要を報告するとともに、 歯性感染症に対する抗菌剤選択の EBM に基づいた抗菌化学療法を行うために検討が必要な事項について記す。
1. EBM に基いた抗菌薬療法で検討する項目
@起炎菌は
A組織移行性は
B炎症のステージ
C副作用、 相互作用
D耐性を助長しない投与方法
Eコストベネフィット
2. 歯性感染症の起炎菌
@起炎菌
図1に示したように、 開業歯科医師 (一次医療機関) 3施設を含む全国12施設においてセフカペンの臨床検討を行った際の検出菌は146症例から333菌株が検出され、 好気性菌が48%、 嫌気性菌が52%で、 好気性菌では oral streptococci, 嫌気性菌では Peptostreptooccus 属、 Porphyromonas 属の検出頻度が高く、 これまでの報告と同様であった。 細菌検査材料の品質基準の検討では表3に示したように好中球が多く、 扁平上皮が少なく検体の品質が適していると考えられる検体では嫌気性菌の検出率が高く、 好中球が少ない検体すなわち口腔常在菌の汚染が疑われる検体では嫌気性菌の検出率は25%と検査材料が一定水準以上の検体に比べ約半分であった。 私達は、 当初一次医療機関と2次医療機関では炎症のステージが異なり、 検出傾向に差が認められると推察したが、 今回集計を行った内服抗菌剤が適応となる軽、 中等症感染症においては検出傾向に差は認めなかった。
A抗菌力
セフカペンの Streptococcus 属125株に対する抗菌力は MIC range は 0.025−6.25 μg/mL、 MIC90 は 0.20μg/mL と臨床開発当時と同じであったが、 MIC50 は 0.10μg/mL で、 開発時の 0.05μg/mL と比べ1管低下していた。 全検出菌株329株の MIC50 は 0.10μg/mL、 MIC90 は 0.78μg/mL であった。 3.13μg/mL 以上の株が占める割合は1次医療機関で3.27%、 2次医療機関で2.07%であった。 臨床効果は図2に示すように91%が有効以上であった。 新経口セフェムは発売後10年以上経過しているが、 Streptococus 属および Prevotella 属で耐性化は認めるが、 耐性菌の占める割合は顕著でなく、 内服抗菌剤が適応となる急性歯性感染症ではフロモックスをはじめとする新経口セフェムは第一選択剤になると考えられた。
3. 第一選択剤無効時の対応@抗菌剤は万能でない
細菌感染症では、 図3に示したようにまず、 菌量を減らせる方法、 切開および減圧などの処置が可能か検討する事が大事である。 Prevotella を 1010 CFU/mL 摂取し、 抗菌剤を添加し0. 2. 4および8時間後の菌量を測定行ったが、 図4に示すように薬剤無添加と抗菌剤添加群に差が認められなかった。 In Vitro で菌量が極めて多い条件における検討であるが、 このように、 感受性菌であっても菌量が著しく多い際は静菌的な効果すら示さないことがある。
4. 抗菌剤の選択 抗菌剤を選択する際に私達は、 起炎菌の把握、 抗菌力および薬剤の組織移行、 炎症のステージが問題を考える必要がある。 炎症のステージすなわち急性期は血管の透過性の亢進がみられ、 好中球およびアルブミンなどは血管外への滲出も容易となり、 感染巣へ薬剤は多く移行するが、 炎症の進展に伴い血流は低下し抗菌薬の感染巣への移行も悪くなる。 ステージと抗菌薬の移行性を加味して選択する必要がある。 移行性ではβ―ラクタム剤はマクロライドおよびニューキノロン薬より劣る (図5)。 慢性下顎骨骨髄炎などでは移行性からニューキノロン薬を選択することがある。
5. 高齢者への処方 高齢の患者さんでは薬剤の排泄も遅延されるが、 薬剤の吸収が悪いこともある、 排泄の遅延ばかりに目を向けて投与量が少なすぎることもある。 β―ラクタム剤、 マクロライドの経口薬では成人の常用量が望ましい。 また、 一般に高齢者は@液性、 細胞性免疫の低下A好中機能の低下BBacterial clearance の低下があるので、 宿主の状態によっては吸収が不安定な経口剤より早めに注射剤を選択したほうが良い。
4. 副作用、 相互作用 特に注意したい相互作用は下記に示すように、
@糖尿病患者に対するガチフロキサシンの投与
Aバルブロン酸ナトリウムに対するファロペネムの相互作用
Bトスフロキサシンとテオフィリンの相互作用
Cミコナゾールとワルファリン
Dニューキノロン薬と消炎鎮痛剤
などがあげられる。
@糖尿病患者に対するガチフロキサシンの投与
ニューキノロン薬はATP感受性K+チャンネルをブロックし、 電位依存性Ca2+チャンネルを介してCa流入を増加させインスリン遊離を亢進させる。 いずれのニューキノロン薬でも発生する可能性があるが、 ガチフロキサシンでは頻度が多く発売後、 糖尿病患者への使用は禁忌となった。
Aバルブロン酸ナトリウムに対するファロペネムの相互作用
ペネム、 カルバペネム系抗生剤はバルブロン酸ナトリウムの濃度を低下させるために癲癇の誘発が危惧される。
Bトスフロキサシンとテオフィリンの相互作用
喘息治療などに用いられるテオフィリンはニューキノロン薬との相互作用でテオフィリン濃度が上昇し頻脈、 頭痛および嘔吐などの症状が認められることがある。 ニューキノロン薬の中でもテオフィリン濃度を上昇させやすい薬剤と影響が少ない薬剤がある。 レボフロキサシン、 ガチフロキサシンは影響が少なく、 トスフロキサシンはやや影響する。
Cミコナゾールとワルファリン抗凝固作用の増強が危惧される。
5. 耐性菌 経口セフェムの多用によりペニシリン低感受性の肺炎球菌 (PISP.PRSP) が欧州より出現し世界的に拡散し、 ニューキノロンの使用により淋菌、 大腸菌耐性株が認められ、 米国では経口バンコマイシンの多用から、 耐性腸球菌 (VRE) が増加し院内感染を起こしている。 現在ある薬剤を長期間使うためにも乱用は慎まなければならない。 感染症と感染予防薬と明確にして投与することは必要と考える。 感染予防薬としては術前何日間も長期に使用すると図6に示したように感受性菌が減少し低感受性および耐性菌が優位になると考えられる。 感染予防薬は短期間投与が望ましい。
6. コストベネフィット 図7、 8に示したように、 同種の薬剤でも発売時期により薬価が異なり、 負担金も異なるセファクロール1500mg 投与と新経口セフェム常与量では新経口セフェムの方が薬価は安い。
7. おわりに 歯性感染症における抗菌薬化学療法の EBM として、 起炎菌、 抗菌力、 移行性および相互作用などの点を考慮し薬剤を選択する必要がある。 今回の集計の有効率から考えるとβ―ラクタマーゼの影響はまだ少ない。 β―ラクタム剤の歯性感染症における有効率は臨床開発時より90%程度と考えられているが、 検討を行ったフロモキセフは10年以上経過したが有効率の低下を認めなかったことは安堵する。 耐性化を助長しないために臨床医が求められていることは、 炎症の初期において、 菌量を減少させるための処置および EBM に基づいた適切な抗菌化学療法を行うことと思われる。 また、 今後とも歯性感染症起炎菌の検出動向すなわち起炎菌のサーベーランスを実施することも重要なことと思われる。
本論文は、 平成15年5月24日に開催された 「日本口腔感染症学会・セミナー・スプリングカンファレンス in kobe」 において発表した内容をまとめたものである。
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