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「SARS にみた院内感染対策の原則」
日本口腔感染症学会
専務理事 吉 位 尚
世界保健機関 (WHO) は、 21世紀初頭の疾病対策として新興再興感染症対策を最重要課題にとりあげているが、 その矢先、 東アジア地域を中心に新型肺炎、 重症急性呼吸器症候群 (Severe acute respirately syndrome (SARS)) が流行した。 WHO によると、 2002年11月1日から2003年8月7日までに延べ8,422人が SARS に感染し、 そのうち916人の死亡が確認されている。
当初は原因不明の肺炎で、 非常に高い死亡率であることがセンセーショナルに報道され世界中を震撼させた。 その後の調査で SARS の原因菌は変異型のコロナウイルスで主に飛沫感染により伝播することが明らかにされ、 病院や航空機内、 ホテル内、 集合住宅内などいずれも閉鎖空間で防御体制が十分にとられなかったために感染したと考えられている。 しかし、 新たな感染者が実は病院内で数多く発生しており、 院内感染によるものであったことは注目すべき点である。 感染した医療関係者は1,725人 (全体の20%) にのぼり、 結果的に SARS のような呼吸器感染症に対する危機管理の弱さを露呈する形となった。
SARS 伝播確認地域の各病院では診断基準や検査方法の確立・普及とともに感染対策の徹底によって院内感染は激減したが、 具体的には、 1) SARS 疑い例や咳をしている患者さんにはマスクをしてもらうこと、 2) SARS の患者さんを特定して隔離すること、 3) 患者さんに接する際にはマスク、 ゴーグルやゴム手袋を装着し、 必要に応じてガウンを着用するとともに手洗い (消毒) を励行する、 といった極めて基本的な防御によってコントロールすることができたのである。 もちろん SARS が終息した背景には、 一部に隠蔽もみられたが各国行政の情報公開は比較的迅速で、 患者さんの接触経路の追跡やフォローアップがきちんとなされたこと、 WHO が中心となり国境を越えた疫学調査が速やかに行われ、 世界有数の研究所で原因菌の特定や遺伝子診断の開発が行われたことなどが総合的に影響している。 しかし、 医療現場においてはできるだけ感染病原体の菌量を減らしかつその伝播経路を遮断するという基本的な感染対策が重要であったことは改めて認識すべきである。
WHO は7月に SARS の制圧宣言をしたばかりであるが、 報告書は 「まだ根絶にはいたっていない」 と指摘している。 冬には SARS の再流行が心配されているが、 その対応には今回の反省が生かされなければならない。 SARS を発症している患者さんが歯科を受診することはあまり考えられないだろうが、 SARS との鑑別が難しいインフルエンザや感冒に罹患している患者さんへの対応も、 患者さんの人権に最大限の配慮を払いながら、 日頃から情報を収集しつつ基本的な院内感染対策を実践したいものである。
歯科での SARS 対策に関する詳しい情報は、 ニュースレター No8あるいは本学会のホームページ
(URL:http: //www. jaoid. org/) を参照されたい。
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