肺炎重症化の生体因子

杏林大学第一内科学教室 河合 伸

はじめに 肺炎は死亡原因の4位に位置し,特に高齢者においては極めて重要な疾患の一つに数えられる。 これら肺炎は、時として重症化し治療に苦慮する事も希ではない.肺炎の重症化に関わる因子としては、1.菌数、菌のvirulence、2.宿主の生体防御機構、 3.炎症による組織傷害を挙げることができるが、今回は主として生体防御機構という感染時の生体反応に主眼を置き、重症肺炎の症例背景について検討した成績、宿主免疫低下による肺炎の発生に関するサイトカイン応答および肺炎発症時の炎症反応に関わる組織障害因子を中心に検討した結果について述べてみたい。

 

1.        重症肺炎の患者背景 

一般に肺炎の重症化因子としては、高齢、呼吸器あるいはその他の基礎疾患の有無が強く関与していると考えられる。 

著者らの検討では、当院に救急入院した過去3年間の市中肺炎432例のうち65歳以上が95例、41%を占めており,また65歳以上と65歳未満の肺炎の重症度を比較すると、65歳未満の例で中等症以下の比較的軽症例が多いのに比し、65歳以上では、軽症例は少なく重症例が極めて多いことが示され、肺炎の重症化において年齢が重要な因子であることが示されている。(図1)。また、これら肺炎症例の中で、65歳未満では、基礎疾患を有する症例が60%であるるのに対し、65歳以上では93%であること、さらに65歳以上では、心疾患、呼吸器疾患、糖尿病あるいは脳血管障害などの肺炎の難治化、重症化要因となる基礎疾患を有する頻度の増加が示されている(表1)。そこで、これら肺炎症例の中で重症肺炎(109症例)の患者背景について分析してみると、平均年齢は72.9歳と高い年齢層が示され、また入院時の臨床症状として呼吸困難あるいは意識障害など重篤な臨床症状が観察されていた。また基礎疾患として呼吸器および心疾患が最も多く、また悪性腫瘍、糖尿病、脳血管障害など局所あるいは全身的な生体防御反応の低下を惹起する疾患を背景に有していることが示されている(表2)。 

さて一般に市中肺炎の原因菌としては、肺炎球菌が最も多く、ついでインフルエンザ桿菌の検出率が高いとされている 1)。しかし近年の市中肺炎の起炎微生物の動向をみると一般細菌は、以前と同様であるが、マイコプラズマ、肺炎クラミジアあるいはレジオネラ菌など非定型肺炎が増加する傾向がみられている2)。この現象は、肺炎の原因微生物同定における遺伝子診断など新しい診断技術の発達に負うところが多く、従って今後さらに増加する可能性があると思われる。しかしながら著者らの重症肺炎の検討では(表3)、その起炎微生物の頻度は、MRSAを含む黄色ブドウ球菌が第一位にランクされ、肺炎桿菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌および緑膿菌が続いており、一般的に言われている市中肺炎の主要起炎菌に比し弱毒菌感染の感染頻度の増加が示されている。  

すなわち肺炎の重症化においては高齢であることおよび肺炎の治癒過程に影響を与えるような基礎疾患の存在が重要な因子となるが、当院での重症肺炎の原因菌として弱毒菌感染が増加しているという結果に関しては、上記患者背景と共に近年の在宅医療の推進の結果として、悪性腫瘍や脳血管障害患者の病院外管理が増加している事などが考えられ、その結果としてMRSAや緑膿菌などの日和見感染菌が増加していることが肺炎の重症化あるいは難治化要因になっているものと考えられる。

 

2.        免疫低下例における肺炎

 肺炎の重症化因子として宿主免疫低下を挙げることができる。先に述べたように、全身性あるいは局所免疫の低下した症例では弱毒菌感染が問題となるが、これら免疫能低下に関して医原性要因も重要な位置を占めることは周知のことである。中でもステロイドは、臨床的に使用頻度が高く、従って本薬剤投与中の免疫不全肺炎の発生は、我々臨床家にとって深刻な問題となっている。しかし、これらステロイド投与時の肺炎発症の原因については免疫抑制という漠然とした理解にとどまりその詳細は明らかでない。そこで、これらステロイド投与後の肺炎発症の病態を緑膿菌感染マウスを用い、サイトカイン動態に基づき検討した。  

マウスにベタメサゾン2mg/kgを4日間投与したのちに、緑膿菌10 レベルを噴霧感染させ、その後の肺組織を観察した。さらに噴霧後のサイトカイン動態について、とくに炎症性サイトカインであるTNFと抗炎症性サイトカインのIL-10を指標として観察した。また、ヒトリンパ球を用い、LPS刺激後のリンパ球産生TNF、IL-10に対するステロイドの影響を観察した。リンパ球産生TNF、IL-10のmRNAの産生についてもPCRを用いて観察した。 

まず組織学的検討において、ステロイド投与がされていないマウスでは、緑膿菌感染1日後および4日後においても肺胞組織に軽度の細胞浸潤がみられるのみであったのに対し、ステロイド前投与群では、4日後において部分的に出血を伴う強い細胞浸潤がみられた。この間におけるBALF 中のTumor necrosis factor(TNF)を観察すると(図2)、コントロール群では、菌噴霧初期からTNF の増加が観察され、その後減少した。一方、ステロイド群では、噴霧初期ではTNF増加はみられず、その後徐々に増加するという相反する結果が得られた。  

またIL-10は(図3)BALF中では、有意差はみられなかったが、全経過を通じてステロイド群において、IL-10が高値を示す傾向が観察された。

  in vitro でのリンパ球のTNF産生に対するステロイド作用の観察において、TNFは、ステロイドにより量に依存して抑制された。IL-10は、ステロイドの量に依存して、逆に増加することが示された(図4)。またPCRを用いた検討でもmRNAレベルでTNFは、LPS刺激により強く産生されるが、ステロイドの添加により抑制された。しかしIL-10については、ステロイド添加によりその発現増加が確認された。さて一般にステロイドはTh1サイトカインを抑制することが知られている 3、4)。 

これらステロイド作用は、各種炎症細胞表面のステロイドレセプターを介して細胞内に入ることにより発現し、主としてサイトカインの核内転写因子であるNFκB、AP−1を強く抑制することによりサイトカイン産生を阻害するとされ 5)、IL-10産生についても理論的には抑制されると考えられる。しかしながらIL-10などTh2サイトカインについては、LPS病態におけるデキサメサゾンによるIL-10の抑制6)の報告やCD4細胞からのIL- 10産生がデキサメサゾンにより増加するという報告7)など対立するいくつかの報告があり未だ一定の見解が得られていない。著者らの検討では、緑膿菌感染マウス実験において、ステロイド前投与群で感染直後のTNF産生が少なく、一方、IL-10については、感染時すでに増加傾向がみられていた。またヒトリンパ球24時間培養後の、TNFとIL-10の変化を観察では、ステロイド投与群でTNF が量依存性に抑制され、IL-10は量依存性に増加することが示された。すなわちステロイドはTNFを抑制する事により、いわゆる炎症反応を制御し、また一方でステロイドによるIL-10産生増加が強い免疫抑制状態を惹起し、菌の進入、定着および増殖を容認したものと考えられ、これらサイトカイン動態の偏向が緑膿菌性肺炎など難治性免疫不全肺炎発生の重要な原因の一つと考えられる。

 

3. 炎症による組織障害

 生体内に細菌が進入すると、各種免疫担当細胞が感染局所に集合し、細菌の定着と増殖を阻止すべく作用する。これら反応は、いわゆる炎症とよばれ、外的から生体を守るため防御反応として極めて重要である。しかしながらこれら炎症が過剰になった場合、自らの生体組織を傷害し、治癒の遷延化や重症化の原因となる。細菌性肺炎において、黄色ブドウ球菌や肺炎桿菌などは、肺の空洞形成など強い組織障害を伴うことが知られ、その原因の多くはこれら細菌が有する外毒素や酵素によると考えられている。しかしこれら細菌性肺炎における生体因子としては、好中球の作用の重要性が知られている。細菌が肺に進入すると、肺胞マクロファージから産生されるIL-8により好中球が感染局所に動員される。これら活性化された好中球は、貪食により細菌を排除するよう作用するが、その際好中球エラスターゼや活性酸素を産生し細菌の殺菌・消化を行う。しかし強く活性化された好中球からは、これら細胞障害性物質が多量に放出され、それ自体が自己の生体組織に作用し障害を与えるが、一方でα1-protease inhibitor(PI)やsuperoxidedismutase(SOD)などの拮抗因子が発動され炎症は制御さえれている。好中球の活性化については、これまで敗血症に伴うAcute Respiratory distress Syndrome(ARDS)の発生に関して多くの報告がなされ、活性化好中球から放出されるプロテアーゼ、活性酸素あるいはプロスタグランヂンなどにより、血管内皮細胞が傷害され,これら因子が敗血症に伴う急性肺傷害の直接的な因子であると考えられている 8ー10)。なかでも好中球エラスターゼは強い蛋白分解作用を有し、血管皮細胞傷害を惹起し、進行と共に肺胞構造の破壊に至るものと考えられる。 

一方、肺炎においても、好中球の肺局所への集積は、好中球活性が過剰にみられた場合、組織障害発生の重要な因子になりうるものと考えられる。そこで肺炎を呈した臨床症例において、その臨床像と好中球エラスターゼの関係を検討した。

まず胸部X線陰影の拡がりと、好中球エラスターゼの関係を観察すると(図5)、右肺3葉と左肺2葉の計5葉のうち陰影の拡がりが1/5葉以内にとどまる症例では、エラスターゼ値は171.1ng/ mlであったのに対し、2/5葉を越える症例においては、303.8ng/mlと高地を示し、また陰影の消失期間の分析では(図6)、7日未満で消失した群では、208.4ng/ml、7日以上陰影が継続した群では263.5ng/mlと肺炎陰影の遷延例において高値を示した。また呼吸不全の指標として、PaO2値と好中球エラスターゼとの関係では(図7)、PaO2≧65torrでエラスターゼ値は165.5ng/ml、PaO2<65torrの群では、295.5torrと低酸素血症が進行した群においてエラスターゼ値の増加が示された。すなわちこれら胸部X線における肺炎陰影の拡大、遷延および動脈血酸素分圧低下という臨床的により重症と考えられる症例において好中球エラスターゼは高値を示し、好中球エラスターゼが肺炎の重症化において重要な役割を演じていると推測された。  

また本稿では、その概略を述べるにとどめるが、炎症による組織障害の修復と再生に関わる因子であるTGF−βやHGFは、好中球エラスターゼ高値症例において増加し、また実験的マウス肺炎において肺胞構造破壊が強くみられる組織部位においてTGF-β、肺胞構造が比較的保たれている部位においてHGFが強く染色されており、肺障害とその後の障害組織修復に関わる興味深い成績が得られている。すなわち生体はエラスターゼなど組織障害因子に対しては、α1-(PI)による障害因子の制御を行っているが、これら制御機構が突破された場合、組織修復因子を動員するという極めて複雑かつ精巧な仕組みを有している。すなわち肺炎など炎症の発生と終息は、これら多くの因子のバランスによって保たれており、このバランスが破綻した場合修復不可能な障害が惹起されると考えられる。

 

おわりに 

以上肺炎の重症化に関わるいくつかの生体側因子について、自験例および実験的検討を交えて解説した。当然の事ながら、これら肺炎の重症化には、生体因子のみならず菌側因子も忘れてはならず、また生体因子についても、あらゆる免疫担当細胞とそこから発する各種メディエーターの役割がバランス良く行われているかどうかにより、肺炎の発生から終息へ至る過程が異なってくるものと考えられる。すなわち肺炎の重症化には、易感染性の問題から、肺組織傷害、さらに傷害部位の修復と再生の促進と阻害に関する因子など、多くの問題点を有している。今後、肺炎の重症化を制御するために、これら多方面からのアプローチが必要と考えられた。

 

引用文献

1)Ishida, T., Hashimoto, T., Arita, M., et al.: Etiology of community-acquired pneumonia in hospitalized patients. A 3 years prospective study in Japan. Chest 114: 1588-1593, 1998. 2)Brown, P.D., Lerner, S.A. : Community-acquired pneumonia. Lancet 325: 1295-1302, 1998. 3)Parrillo, J.E., Rodbord, D. : Mechanisms of glucocorticoidaction in immune process. AnnuRev PharmacolToxicol19: 179-201, 1997.

4)Knicha, J., Talle, M., Denhard, G. : Immunosupressionby gulucocorticoids: inhibition on production of multiple lymphokinesby in vivo administration of dexamethasone. Cell Immunol149: 39-49, 1993.

5)Stein, B., Cogswell, P.C., Baldwin, Jr.A.S. : Function and physical association between NFkBand C/EBP family menbers- a Reldomain- bZIPinteraction. Mol Cell Biol12: 3964-3974, 1993.

6)Elenkov, I.J., Papanicolaou, D.A., Wilder, R.L. : Modulatoryeffects of glucocorticoidsand cathecholaminson human interleukin-12 and interleukin-10 production: clinical implications. Proc Am Physicians 108: 374-381, 1996.

7)Ramierz, F., Fowell, D.J., Puklavec, M., et al. : Glucocorticoidspromote a Th2 cytokine response by CD4+ T cells in vitro. J Immunol187: 870-877, 1996.

8)河合 伸,酒寄 亨,他:感染症に伴うARDSに対するタンパク分解酵素(ウリナスチン)の有用性について.日胸学誌 6:843-851,1990.

9)Bizios, R., Minner, F.L., Hoyer, Z., et al. : Efectof cyclooxygenaseand lipoxigenaseinhibition on lung fluid balance after thronbin. J ApplPhysiol55: 462-471 , 1983.

10)Marcus, A.L., Breokman, M.J., Safier, L.B., et al. : Formations of leukotriensand other hydroxyacids during platelet-neutrophilinteractions in vitro. BiochemBiophysResCommun109: 130-137, 1982.