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医療法人榮昌会 吉田病院院長 福森豊和
1.はじめに
肺炎は死亡原因の第4位であり、その90%は65才以上の高齢者です。高齢者に特徴的な肺炎の病態として、沈下性肺炎やインフルエンザ肺炎がありますが、中でも食物や唾液、咽頭分泌物、逆流してきた胃内容物を誤嚥する嚥下性肺炎が大きな問題となっています。今回、嚥下反射を中心にお話しいたします。
2.嚥下運動に関係する脳と神経
嚥下の経過は、先行期・準備期・口腔期に分かれ、さらに口腔期は1〜3期に分類されます。2期である咽頭期では嚥下反射によって食物塊は食道に送られます。その反射弓は、球心路が三叉・舌咽・迷走神経であり、中枢は延髄(孤束
核・延髄網様体)で、遠心路は迷走神経が司っています。
また、運動系は大きく錐体路と錐体外路に分類されます。錐体路は皮質脊髄路や皮質延髄路であり、それ以外を錐体外路と呼び、個々の運動に細やかなニュアンスを付け、滑らかに進行するよう作用します。小脳・線状体・赤核・黒質・脳
幹網様体などが関与し、嚥下運動に大きく関わり合っています。
3.嚥下障害の原因となる神経学的変化
1)舌咽・迷走舌下神経などの脳神経麻痺、2)延髄の神経核の障害(球麻痺)、3)両側皮質延髄路の障害(仮性球麻痺)、4)両側性の錐体外路障害、5)一側性の顔面を含む片麻痺などがあります。
原疾患として、球麻痺では急性発症するものに脳幹梗塞・ギランバレ−症候群などが、慢性進行性では筋萎縮性側索硬化症(ALS )・延髄橋部腫瘍・延髄空洞症などが、変動性を示すものに多発性硬化症があります。仮性球麻痺では急性発症として脳梗塞・脳出血・頭部外傷が、慢性進行性では多発性脳梗塞・脳腫瘍・ALS ・パ−キンソン病・脊髄小脳変性症などがあります。
さらに、パ−キンソニズム・錐体外路系障害を生ずる薬剤や注意力・集中力低下・眠気を起こす薬剤などが嚥下障害の原因になっていることがあります。
4.嚥下性肺炎の特徴
胃内容物を誤嚥した場合は、気管支痙攣・気管支閉塞・化学性肺炎(肺胞上皮の壊死・毛細血管内皮細胞の障害)により低酸素状態になりやすく、不可逆性変化を来たした場合は成人呼吸窮迫症候群となり死亡する確率が高くなります。また、嚥下動作を伴わずに気管へ落ち込む、吸引や流入(微少吸引)が特徴です。
肺炎や肺化膿症の分離菌では、1)歯周病起因菌である嫌気性桿菌、2)歯性閉鎖膿瘍起因菌のStreptococcus milleri group 、3)化膿性炎症起因菌に多いStaphyrococcus aureus が主として認められています1)。
5.嚥下反射と嚥下性肺炎
嚥下性肺炎は嚥下反射の遅延と深く関与します。健康人では80才代でもほとんど遅延はありませんが、肺炎患者では年齢が高くなるにつれ4〜6倍遅延します。また、反射の遅延は昼間に比べ夜間に著しいこと、皮質梗塞患者より基底核梗塞に、しかも両側が障害された症例に著しいことが特徴です2,3,4)。
私どもの施設では平成11年度1383人が入院され、内45%の629 人が脳卒中で、さらに脳虚血は27%の374 人でした。脳虚血では、穿通枝血栓のラクナ梗塞が40%と多く、嚥下障害を持った患者さんが多い事を意味します。脳卒中患者の15%が経管栄養で23%が訓練食である数値を見れば、大変多い事が分かります。
6.嚥下性肺炎の防止策
1)早期経口摂取トレ−ニング
私どもの施設では「嚥下訓練ガイドライン」を作成し、意識評価・座位水飲みテスト・嚥下ビデオレントゲン検査(VF)をもとにゴ−ルを設定し、PT・ST・看護婦が協力してトレ−ニングを行っています。まだ長期の評価は出ていません。
2)歯科医師・歯科衛生士によるプロフェッショナル・オ−ラル・ヘルス・ケア
高齢者の咽頭の総菌数やレンサ球菌数が減少し、ブドウ球菌が消失したという報告5)があり、口腔内衛生が肺炎の予防に大きな役目をはたす事が証明されました。
3)咳反射・嚥下反射を起こさせる内因性物質(サブスタンスP)を増加させる薬物
唐辛子の成分であるカプサイシン6)・ド−パミン製剤(L-ド−パ)7)・アンジオテンシン変換酵素(ACE) 阻害剤などが臨床研究の場で効果があることが証明されています。ACE 阻害剤は副作用として咳嗽が問題になっていたぐらいです。今の所、効能効果では採用されていません。
7.結び
急性期の脳卒中を扱う医師が歯を診ないし歯科医師に相談しない、また車椅子
が入らないので歯科診療を断られるなどの事例があります。要介護高齢者等の数は、2000年に 280万人、2025年には倍近い 520万人と見込まれています。闘病生活を余儀なくされた患者さんのQOL や嚥下性肺炎の実状を見ますと、歯科医師と医師とのさらなる連携が必要とされます。
文献
(1) 新里敬 他:口腔内連鎖球菌による肺感染症.治療の最前線1:104-108,1994
(2) Kobayashi H, et al:Aging effects on swallowing reflex.Chest
111:1466,1977
(3) Pinto A, et al:Swallowing reflex in the night. Lancet
344:820-821,1994
(4) Nakagawa T, et al:High incidence of pneumonia in elderly patients
with basal ganglia infarction. Arch. Intem. Med.157:321-324,1997
(5) 広田克美 他:プロフェッショナル・オ−ラル・ヘルス・ケアを受けた高齢
者の咽頭細菌数の変動.
日本老医会 34:125-129,1997
(6) Ebihara T, et al:Capsaicin and swallowing reflex. Lancet
341:432,1993
(7) Kobayashi H, et al:Levodopa and swallowing reflex. Lancet
348:1320-1321,1996
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