は じ め に

(日本口腔感染症学会理事長   島田桂吉)

 

 歯科で扱われる感染症は歯性感染が、大部を占めるため、従来より歯を中心とした感染の病態が論じられてきたが、顔面・顎・口腔領域全般に医療範囲が拡がってきた近年の歯科医療では、研究対象疾患も拡がり、口腔感染症に対する研究は歯科医学のなかで、重要なテーマとなってきた。また、口腔感染症は全身病にも関連することが指摘されてからは、う蝕、歯周炎のような極めて限局された歯科領域の感染症においてさえ、全身との係わりに目を向けた医療が求められるようになった。一方、新興感染症として AIDS、ウイルス性肝炎などが出現し、既に征服されたとされていた結核などが再興感染症の名のもとに復活してきて、感染症は医学全体のなかで、治療と予防の両面から再び重要視され、見直されている。21世紀の医療は国際規模で、感染症への対策あるともいえよう。
 このような感染症に対する医学の推移を踏まえて、口腔感染症を的確に認識し、適切な医療を行える体制を模索するなかで、我々は歯科医療を担う大学在籍医、病院勤務医、歯科開業医の三者が一体となる構成で、口腔感染症を学術の場から、また、臨床の場から討論し、研修する組織を平成3年8月に設立した。当時、院内感染が世論の関心事で歯科医療もその渦中にあったので、会の名称を口腔感染予防研究会と称して、年1回の学術大会と年数回のカンファレンスを開催してきた。新興のウイルス性感染症、話題になった治療薬、重症で難治な口腔領域感染症の治療、予防などについては専門医を招いて研鑽を積み、会員も400名を越えて、本年(平成13年)満10周年を迎えることになった。大学、病院の会員も徐々に増えてきつつあり、三者が対等に参加、討論できる真の組織にしたいとする役員会の意向をくんで、本年4月1日をもって、口腔感染予防研究会を日本口腔感染症学会と改称し、口腔感染症全般と関連する疾患をターゲットにおいた学会として、スタートすることになった。口腔感染予防研究会から通算して、10回目に当たる本年度総会を第10回日本口腔感染症学会として、平成13年11月17日、神戸大学大学院医学系研究科器官治療医学講座の古森孝英教授を総会長に開催する運びである。
 21世紀の健康科学は遺伝情報に踏み込み、人類の英知で、感染症に対する医療においても、一層に前進することは明白である。それらの成果を口腔感染症の治療と予防に生かすのは、歯科治療に携わる我々の使命である。本学会がその中心的役割を果たせるように発展して欲しいと希っている。